より分かりやすく説明するならば、イスラエルとハマース双方の事情によるものです。平和と戦争の分かれ目は、常に当事者の譲れる限界点にあります。そして、ガザ紛争の場合には、そのような双方の立場の限界点のズレにより、最大の被害を無辜の市民たちが負い続けていると言ってもよいのかもしれません。
もともとの停戦合意によれば、6週間続いた第一段階の一時的な停戦を経て、第二段階の本格的な停戦に入ることが予定されていました。確かに第一段階の停戦においては、ハマースにより25人のイスラエル人の人質が解放されるとともに、多くのパレスチナ人の囚人がイスラエルの牢獄から解放され、ガザにも一時的な静けさが訪れました。第二段階においては、ハマースが残り全員の人質を解放し、イスラエル側も完全な停戦に合意することが想定されていました。
ところが、イスラエルは第二段階に向けて完全な停戦にコミットすることはなく、ハマースに対して全員の人質の解放を要求し続けました。ハマース側はもともとの合意に従って、第二段階に向けた交渉を行うことを意図していたのですが、イスラエルによる度重なる停戦違反が続き、3月18日にはイスラエル側が本格的な攻撃を再開したことをきっかけに停戦合意の枠組みが完全に空中分解したのです。
この背景には、イスラエルの内政事情が大きく作用しています。なんとならば、1月の停戦合意を受けて、1月19日には宗教右派政党である「ユダヤの力」の代表で国家安全保障大臣のイタマル・ベン・グビールが辞任を表明したからです。

ベン・グビールは、もともとハマースの殲滅とガザへの再入植を行うべしとする主張を繰り返していた人物です。宗教右派政党が閣外に去るようなことになれば、ネタニヤフ政権の維持は極めて難しくなります。この点で本格的な停戦にコミットする政治的な選択肢は、イスラエル側にはもとよりなかったというのが真実に近いのです(ちなみに、ベン・グビールは停戦が崩壊した直後の3月19日に政権に復帰しています)。
停戦崩壊の結果、次のような甚大な被害が改めてガザのパレスチナ人にもたらされています。ガザの保健省のデータによれば、2023年10月7日から2025年4月30日までの間に、ガザでは5万2400人が殺害され、11万8014人が負傷しています。停戦が崩壊したこの3月18日から現在だけでも、イスラエルの攻撃により2308人が殺害され、5973人が負傷しているのです(参考:ガザの最新の人道状況は国連人道問題調整室(OCHA)のレポートおよびスナップショットを参照)。ガザから発信されるソーシャルメディアには、空爆により殺された子供たちの凄惨な写真やビデオがあふれかえっています。
ガザでの停戦を望まないイスラエルの本心
そして、やはりガザの停戦実現においても、イスラエルの意図が鍵を握っています。イスラエルの意図は、ガザから多くのパレスチナ人を第三国に自主的に移民させることにあります。ネタニヤフ首相をはじめとする多くのイスラエルの閣僚がそうした意図を繰り返し明らかにしてきました。