米軍三沢基地に配備された「B1-B」戦略爆撃機(写真は2月24日撮影、米空軍のサイトより)

台湾侵攻抑止が最優先課題

米国の「暫定国防戦略指針」

 第2次ドナルド・トランプ政権が仕掛けた貿易戦争の主対象は、言うまでもなく中国である。

 同時に、米国が安全保障・防衛の分野でも「中国による台湾占拠の抑止」を最優先課題としていることが明らかになった。

 米ワシントン・ポスト紙は3月29日、ピート・ヘグセス米国防長官が署名し、国防省内に配布した9ページからなる「暫定国防戦略指針」(Interim National Defense Strategic Guidance)と題する内部指導文書を公開した。

 この文書は3月中旬に国防省全体に配布されたもので、「中国による台湾占拠の抑止」と「米国本土防衛の強化」に焦点を当てるとされている。

 同文書は、米国が中国との包括的戦略的競争を中核的優先事項に位置付けていることを改めて強調したものと見られる。

 貿易戦争とともに、中国との全面対決、いわば新冷戦に突入したことを宣言するに等しいと言えよう。

 ヘグセス国防長官は、中国およびロシアとの「大国間競争」「戦略的競争」が激化し、「ならず者国家」と名指しされるイランおよび北朝鮮が両大国と同調する構図の下、世界各地でリスクを負い、世界大戦の危機が議論される中で「中国による台湾占拠の抑止と米国本土防衛の強化を優先する」との国防戦略を選択し米軍の方針転換に舵を切ったのである。

 この方針に沿って、今後米国は、国家安全保障戦略(NSS)や国防戦略(NDS)、軍事戦略(NMS)を策定し、中国との強制的な戦略的デカップリングを最優先課題として強力に進めていくことになろう。

 それが、同盟国や友好国との協力連携や役割分担などの面において大きな影響を及ぶすことになるのは避けられない情勢である。

欧州は欧州の力で

中国・ロシア・イラン・北朝鮮による悪の枢軸への対応

 ワシントン・ポスト紙の報道によると、文書は「中国は国防省にとって唯一のペース配分の脅威であり、中国による台湾の既成事実化を阻止しつつ、同時に米国本土を防衛することが国防省の唯一のペース配分シナリオである」と主張し、「モスクワからの脅威には主に欧州の同盟国が関与する」と述べている。

 つまり、米国は、NSSやNDSなどで重要な構成要素となっている「同盟戦略」を無視あるいは放棄したわけではない。

 むしろ、対中戦略において米国の戦略的優位を維持・強化するため、同盟相手国に対しより大きな責任や負担を担うことを要求する必要性に迫られ、欧州ではNATO(北大西洋条約機構)にそのことを繰り返し求め、中東ではイランに対抗できるイスラエルやサウジアラビアなどに肩入れしているのはそのためである。

 特に、焦点であるインド太平洋(中国・北朝鮮)では、台湾の国防力強化を支援しつつ、日本、オーストラリア、フィリピン、韓国、タイなどの同盟国やインドやベトナムなどの友好国との協力連携や役割分担の強化を求めるのは当然の流れと見られる。

 ヘグセス国防長官が3月末、就任後初となるインド太平洋地域への外遊で日本とフィリピンを選んだのには明確な理由がある。

 それは、台湾および第1列島線防衛に当たり、両国の地政学的重要性に沿った最も大きな役割を期待し、「対中抑止の再確立」に向け協力連携の強化を重視したからにほかならない。

 日本では、在日米軍を一層強化することと、計画が見直されることへの懸念が湧き上がっていた在日米軍司令部を統合軍司令部に再構成し、自衛隊との連携を強化する方針が再確認された。

 また、米インド太平洋軍司令部のウエブサイトによると、4月15日、米国の「B-1B」戦略爆撃機が、米本土から青森県の三沢米軍基地に前進配備されたという。

 同戦略爆撃機の日本展開は、我が国にとって初めてのケースであり、北朝鮮に対する圧力だけでなく、中国をけん制する狙いもあると見られる。

 フィリピンでは、同国への対艦ミサイル配備、軍事訓練の強化、防衛産業基盤の協力を約束した。

 対艦ミサイルについては、「タイフォン(Typhon)」と呼ばれる、「SM-6」ミサイルと「トマホーク」ミサイルを発射できる中長距離の攻撃ミサイルシステムを配備する。

 約1200マイル( 「トマホーク」ミサイルの射程距離、1マイルは約1.6キロ)離れた目標を攻撃できる兵器で、対中作戦を念頭に配備されるものである。

 その後、米国国防安全保障協力局(DSCA)は、国務省がフィリピンに「F-16」戦闘機20機を供与することを承認したと発表した。

 このように、インド太平洋における「対中抑止の再確立」を最優先する立場から、同地域の同盟国・友好国との協力連携と役割分担の強化が図られる一方、欧州と中東では当該地域の同盟国・友好国により大きな関与を促す動きが促進されることになろう。