日本の役割増大は不可避
現実化する「台湾有事は日本有事」
改めて、なぜ「台湾有事は日本有事」なのかを問うてみよう。
1972年に米国施政権下にあった沖縄が日本へ返還された。それに先立つ1971年、中国外交部は沖縄返還協定に対し次のような声明を出し抗議した。
① 釣魚島(魚釣島)は明代に中国の海上防衛区域に含まれており、それは琉球すなわち今の沖縄に属するものではなくて、中国台湾の付属島嶼であること。
②中国と琉球とのこの区域における境界線は、赤尾嶼(大正島)と久米島との間にあること。
③日本政府は日清戦争を通じてこれらの島嶼を搾取したことなど。
その後、2012年に「釣魚島―中国固有の領土」と称する文書を、また、それを受け、同年に『釣魚島は中国固有の領土』と題する、いわゆる『釣魚島白書』をそれぞれ発出した。
その中で、カイロ宣言、ポツダム宣言および降伏文書を根拠に、釣魚島は台湾の付属島嶼として中国に返還されるべきものであると主張した。
その目次を見ると、①釣魚島は中国固有の領土である、②日本は釣魚島を窃取した、③米日が釣魚島をひそかに接受したことは不法かつ無効である、④釣魚島の主権に対する日本の主張には全く根拠がない、⑤中国は釣魚島の主権を守るために断固として闘う、としている。
問題は、「釣魚島(魚釣島)は台湾の付属島嶼で、中国固有の領土である」と主張している点にある。
その上で、「一つの中国」原則に基づき、台湾は中国の不可分の一部であり、中国は、外国勢力による中国統一への干渉や台湾独立を狙う動きに強く反対する立場から、両岸問題において武力行使を放棄していないと繰り返し明言している。
つまり、中国にとって台湾と尖閣諸島は不可分の一体であり、台湾を武力統一することには尖閣諸島が自動的に含まれると見なければならない。
そして、習近平国家主席が、中国軍が創設100周年を迎える2027年までに台湾を奪取するのに十分な軍事力を備えるよう指示した「建軍百年の奮闘目標」が刻々と近づいていることに最大の警戒が必要である。
米中の対立は、「専制・強権主義と民主主義の戦い」ともいわれている。
尖閣諸島を焦点とする南西地域や台湾は、グローバルな対立の最前線に置かれ、東西冷戦の再現を想わせる国際社会の帰趨を左右する焦点となっており、「法に支配に基づく自由で開かれた国際秩序」を維持できるかどうかの分岐点である。
東アジアの主要国である日本は、自らの防衛に万全を期すのは言うに及ばず、その上で、日米同盟を基軸に、地域の安全保障・防衛の要としての重責を果たさなければならない。
中国の軍事行動に北朝鮮が同調する可能性が十分に想定される中、日米韓の協力連携は欠かせない。
焦点の「台湾有事は日本有事」に対しては、日米台の戦略的連携メカニズムの構築は待ったなしである。
さらに、中国の海洋侵出には、南シナ海の支配やバシー・ルソン海峡の打通が伴うと見られることから、特に日米比の防衛協力も前進させなければならない。
その上で、インド太平洋を覆う形で日米豪印の安全保障枠組みである「Quad(クアッド)」を実効性あるものとし、「多層的で共同歩調のとれた協力連携網」を目指して、日本から韓国、台湾、フィリピン、そしてオーストラリアへと連なるアジア太平洋地域の同盟国・友好国による、切れ目のない強靭な集団防衛モデルの構築を進めることが中国抑止上極めて重要である。
さらに、中国との対立が国際社会の既存秩序を揺るがし、また、欧州や中東の情勢が日本をはじめインド太平洋の安全保障・防衛に重大な影響を及ぼすことから、NATOや英国などとの相互安全保障・防衛協力を強化することも大きな課題である。