北朝鮮への揺さぶり

 日本として懸念すべきもう一つの重大な進展は、ロシアとの「包括的な戦略的パートナーシップ」を事実上の同盟として喧伝して止まない北朝鮮が、武器・弾薬面でロシア支援を続けているだけでなく、1万人を超える兵力をこの戦争に投入したことである。不足していた実戦経験を積ませるだけでなく、ロシアから高度の軍事技術を得る、さらには朝鮮半島有事の際にロシアから軍事支援を受けるための布石であると見受けられる。

 同時に、北朝鮮兵から見れば自分たちにとって何ら切実でない戦争に参戦させられて落命する、あるいは捕虜となることに対して、抑えがたい躊躇、強い反発があることも想像に難くない。であれば、日本はウクライナや韓国と連携して、戦場や銃後の北朝鮮兵、さらには捕虜として確保された北朝鮮兵への啓蒙教化、働きかけを倍加すべきだろう。

 今まで極端に閉鎖的な社会で暮らしてきた北朝鮮の兵士たちがロシアやウクライナの現況を見て何を感じ、何を持ち帰るのかは興味が尽きない。思い返せば、第一次大戦での厭戦気分がロシア革命の一つの底流となったことは歴史が教えてくれるところだ。ウクライナ戦争がウクライナ、ロシアといった交戦国の将来に大きな影響を及ぼすことは当然として、北朝鮮についてもパラダイム・シフトを招来し得ることを十分に認識し、この機会を最大限活用すべきだろう。

 権威主義的体制がある日突然、瓦解し得ることは我々がしばしば経験してきたところだ。

 ベルリンの壁の崩壊もそうだったし、ルーマニアのチャウシェスク政権の転落もそうだった。プーチンのロシア、金正恩の北朝鮮が未来永劫盤石な保証はどこにもないのだ。

 その一方で、ロシアと北朝鮮が軍事的な連携をここまで深めることとなった事態が日本の安全保障にとってもたらす意味合いには、鋭敏な危機感が必要だ。

 2022年12月に策定された国家安全保障戦略においては、「北朝鮮の軍事動向は、我が国の安全保障にとって、従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威となっている」とし、「我が国を含むインド太平洋地域におけるロシアの対外的な活動、軍事動向等は中国との戦略的な連携と相まって、安全保障上の強い懸念である」と分析しているものの、これは露朝の連携が打ち出される前の話だ。中露の戦略的な連携にとどまらずに露朝の連携もでてきたことは、日本の安全保障環境をさらに厳しいものにしている。

 中国が台湾海峡でアクションを起こす場合には、こうした露朝の動きも連動して起きる可能性を十分に念頭に置いておかなければならない。まさに未曽有の国難に直面している時代なのだ。

国家衰退を招いた日本外交の闇』(山上信吾著、徳間書店)