カナダの「ミニ・トランプ」
現在保守党トップを務めているのはピエール・ポワリエーブル党首(45)だ。弱冠24歳で保守党から出馬して初当選を果たし(選出時は25歳)、その後のハーパー政権で要職を務めるなど、いわゆる「キャリア政治家」として知られる。
2022年9月、保守党党首に就任すると議会などで容赦ないトルドー氏批判を行い、一躍脚光を浴びた。その年の初め、オミクロン株が猛威をふるう中コロナワクチンの義務化、及び行動制限に反対する大規模な抗議活動が展開されると「彼らを誇りに思う」と全面支持。コロナ対策を行うトルドー政権が「行き過ぎた権力行使」を行い、それに反対する者を侮辱した、などとこき下ろした。

ポワリエーブル氏は右派ポピュリストとして知られ、政敵やメディアなどに対する過激で攻撃的な言動などで「ミニ・トランプ」とも呼ばれる。一昨年にはカメラインタビュー中、りんごを頬張りながら「(私がトランプ氏のようだと)言ってるのは誰だか言ってみろ」など、記者の質問を上から目線で小馬鹿にするような回答を繰り返した。
既存メディアをエスタブリッシュメントとして敵視するカナダの保守支持層のみならず、トランプ支持者からも喝采を浴びている。
1年ほど前には当時のトルドー首相に議会で「いかれた奴」と発言した。下院議長から4度にわたり撤回を求められたにもかかわらず「では“過激派”と呼ぶ」などと拒否し、下院から追放処分を受けている。
ポワリエーブル氏はトランプ氏が連呼してきた「アメリカ・ファースト」や「米国は壊れている」にそっくりな「カナダ・ファースト」「カナダは壊れている」という政治スローガンを掲げた。リベラル層を「過激な左派」と呼んだり、気候変動に危機感を持ったり、多様性などを重んじたりする層を「Woke (いわゆる“意識高い系”に類似する蔑称)」と見下したりするなど、トランプ氏の得意とする社会分断工作で支持を拡大してきた。
ところがポワリエーブル氏には気の毒なことに、そのトランプ氏が米大統領として返り咲き、長年の同盟国であったカナダに本格的な攻撃を始めると、にわかに潮流が変わった。常識的に考えれば、自国に不利益を被らせている張本人と酷似した言動を繰り返す党首に、魅力を感じる有権者はどれほどいるだろうか。