カーニー氏のしたたかな戦術
おまけに、公共放送の削減を唱えてきたポワリエーブル氏を熱烈に応援していたのは、つい先日、自身が率いるEVメーカー・テスラの劇的な業績悪化が伝えられたイーロン・マスク氏である。印象論のみならず、テスラの業績という数値に表された世界的なマスク氏の嫌われ方を見れば、現状マスク氏と結び付けられることも恐らく「ありがた迷惑」でこそあれ、保守党への追い風にはならないだろう。
当のトランプ氏はポワリエーブル氏について「保守党の候補は知らないが、馬鹿なことに私の友人ではない」とし、また「自由党と交渉する方が楽だと思うし彼らが勝つかもしれないが、どうでも良い」と自由党の方が御し易いというニュアンスの発言を行なっている。
ポワリエーブル陣営は、この発言は自由党がトランプ氏に甘く見られている証拠だと印象付けようとしている。ポワリエーブル氏は、自身が政権を取ればトランプ氏による関税攻撃を打ち破ると言ってはいるものの「(トランプ氏を)コントロールできる者は誰もいない」とも発言し、米国との対決姿勢は、取ってつけたような感が否めない。
自由党はすでにカナダにおける反トランプ感情を掴み、ポワリエーブル氏とトランプ氏を結びつける戦略に出ている。トランプ・ポワリエーブル両氏による「フェイクニュース」「過激な左翼」などというそっくりな発言を交互に編集した動画を拡散している。
また、カーニー氏もしたたかな戦略に出ている。これまでのポワリエーブル氏のお家芸はトルドー氏と、特に国民に不人気だった炭素税叩きなどであった。しかしトルドー氏は辞任し、消費者への炭素税はカーニー氏が就任早々撤廃してしまい、都合の良い攻撃材料がなくなってしまった。
英エコノミスト誌は、カーニー氏は元々炭素税推進派であり、この策はあたかも炭素税撤廃がカーニー氏の発案によるものと錯覚させることに成功したようだと伝えている。同誌はまたカーニー氏が、これまでポワリエーブル氏が提唱し、トルドー政権が難色を示してきた新築住宅の売却にかかる付加価値税を即座に撤廃したことについても同様の評価をしている。
ポワリエーブル氏にしてみれば、これまでのお株をカーニー氏にそっくり奪われてしまった形になる。
カーニー氏は、先の米大統領戦においてカマラ・ハリス前副大統領が、不人気だった当時のバイデン大統領とあまりに政策が似通っていると有権者に認識されたために評判を落とした「ハリス現象」の二の舞となることを避けようとしているのだという。前政権による政策の早々の撤廃などは、トルドー氏との距離をとっているとされる。
こうして見ていくと自由党・カーニー氏優勢の感が強まるが、米ニューヨーク・タイムズ紙が今月21日、気になる指摘をしている。選挙を前に重要な要素となるSNSの一つ、フェイスブック上では現在、カナダの有権者が既存メディアのニュース情報を入手できないという事象だ。