重要なのは賃上げ原資の配分

——春の賃上げ交渉のニュースでは、「ベア」や「定期昇給」などという言葉が出てきます。曖昧に理解している人も多いかと思いますが、そもそもどういうことか、改めて整理させてください。

藤井:公表される各社の春闘の結果では、ベア(ベースアップ)額だけを答えている場合やベアと定期昇給分を含めた金額を答えている場合などがあります。まず、賃上げの構造を理解するには、定期昇給とベアは別物であるという認識が必要です。

賃上げは手放しによろこべない?(写真:umaruchan4678/Shutterstock.com)

 定期昇給は制度によって決まっている昇給と考えるのが一番わかりやすいでしょう。例えば「1等級のグレードに属している人がAの成績を取ると1万円給料が上がる、Bの成績だったら5000円上がる」というように、人事・給与制度で決められたものです。よほどのことがない限り、会社はルール通りに支払います。

 一方、ベアは物価上昇や人材獲得のニーズなどを考慮して、賃金水準を底上げするものです。

——春闘ではベアが交渉のメインになるということですね。

藤井:労働組合がある会社なら、ベアは組合側と会社側の交渉で決まりますが、組合がなければすべて会社側の経営判断で決まります。

 さらに重要なのは、例えば賃上げ率が5%だとしても、それは平均の賃上げ率だということです。つまり、すべての社員の給料が5%上がるわけではありません。平均の賃上げ率が5%だとしても、その賃上げ原資が実際にどのように配分されるのかは別の問題です。

「JTC(Japanese Traditional Company)」と呼ばれる日本の伝統的企業の場合、組合は配分も合わせて要求するケースが多いですが、組合がない場合は配分も会社側が一方的に決めることになります。

——組合のない企業はベアの原資も配分もブラックボックスになっているということですね。初任給を上げる企業も相次いでいますが、こちらも手放しによろこべないのでしょうか。