成長実感と昇給実感が乖離する

藤井:企業が初任給を上げるとして、さすがに1年目と2年目の給料が逆転することはあり得ないですが、上げ幅で言えば、2年目や3年目の人の給料も初任給と同じように上がるのかというと、大抵はそうではないでしょう。

 単純に説明すると、初任給を3万円上げるのであれば2年目は2万5000円アップ、3年目は2万円アップ、というような形で上げ幅を低減させつつ、逆転もしないように調整していくことになります。そう考えると、一番下の等級の賃上げカーブ(入社後の年数と賃上げの上昇率の関係)は傾きがどんどん小さくなっていく可能性が高い。つまり、「去年より成長したはずなのに給料はあまり上がらない」という事象が必ず起こります。

 大卒新入社員は入社3年のうちにおよそ35%が辞めるとも言われています。そうしたなかで初任給の大幅アップが広がると、若手の間で成長実感と昇給実感が合わないというケースが増えてくる可能性があります。

 そもそも、賃金全体を底上げする体力がないのに、無理をして初任給をあげた企業は、人材のつなぎ止めの観点で今後、非常に苦しい状況に直面する可能性があります。

【JBpressナナメから聞く/パーソル総合研究所・藤井薫氏インタビュー】
(1)初任給50万円でもよろこべない!賃上げの不都合な真実…2年目以降の昇給幅は減少、知られざる配分の実態とは
(2)配属ガチャも転勤もなし…会社は新卒にやさしすぎる?辞めてほしい人/欲しくない人、会社の本音は
(3)ジョブ型人事はつらいよ!「ふつうの会社員」の生存戦略 管理職は罰ゲーム、B評価なら実質減給

藤井 薫(ふじい・かおる)パーソル総合研究所 上席主任研究員 電機メーカーの人事部・経営企画部を経て、総合コンサルティングファームにて20年にわたり人事制度改革を中心としたコンサルティングに従事。その後、タレントマネジメントシステム開発ベンダーに転じ、取締役としてタレントマネジメントシステム事業を統括するとともに傘下のコンサルティング会社の代表を務める。2017年8月パーソル総合研究所に入社、タレントマネジメント事業本部を経て2020年4月より現職。著書に『ジョブ型人事の道しるべ』(中央公論新社)、『人事ガチャの秘密』(中央公論新社)