宥和的な姿勢がプーチンをより大胆にさせる

「逆ニクソン戦略」をとるトランプ氏はロシアを中国から引き離し、米国側に寝返らせることができると信じている。ロシアは中国の「下位パートナー」に転落。対米関係を修復することで国際的地位を改善できると考えているため、トランプ氏のアプローチを歓迎する可能性があるとみているようだ。

 西側に対抗する姿勢を強めるプーチン氏はウクライナ戦争を機に中国との関係を強め、ロシアを中国と並ぶ主要な反西側勢力と位置付けている。トランプ氏のプーチン氏への宥和的な姿勢とウクライナや欧州への敵対姿勢はむしろプーチン氏をより大胆にさせる恐れが大きい。

 米国とウクライナの鉱物協定についてライアン氏は「この合意から最も期待できるのは米国をウクライナとの長期的なパートナーシップに引き込み、いずれ安全保障の保証につながる点だ。しかし現在のトランプ政権下ではそのような展開はほぼ不可能だろう」と分析する。

 トランプ氏はウクライナ国民の米国への信頼を破壊した。プーチン氏の立場を強め、独裁国家の侵略行為に対して米国は干渉しないとの誤ったメッセージを発信している。「中国が台湾周辺で活動を強化し、日本に対する行動を活発化させている点で最も顕著に現れている」(ライアン氏)という。

【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。