また、フランス国立科学センターで宇宙を研究するフランス人の研究者がアメリカに入国しようとしたとき、抜き打ち検査で携帯電話とパソコンを調べられた。すると、トランプ政権が研究予算の削減などを行っていることを同僚と批判しているやりとりが残っていた。そのため、機器を没収された上、入国を拒否されたことが、3月19日に明るみに出た。
トランプとプーチンは、言論・思想の統制、弾圧という点で同類項である。トランプは反アメリカ的価値観を持つ学生や研究者は入国させない。プーチンも入国禁止者のリストを作っている。アメリカは、これでも民主主義の国と言えるのか。マッカーシズムに逆戻りである。

キリスト教のアメリカと反知性主義
若い研究者の頃、日本とヨーロッパという伝統社会からアメリカに渡った私は、トクヴィルが『アメリカのデモクラシー』(1835年第1巻出版)を書いたときのような気分で、大きなカルチャーショックを受けたものである。
地方のバプテストの大学で政治学の授業をしたが、政治学の授業の後は、講堂に全学生が移動し、聖書の一場面を寸劇で再現する。キリスト教の理念が、生活にも教育にも根付いていた。
インディアナ州ではバプテスト教会の信者たちと一緒の機会が多かったが、信仰の自由こそアメリカの真骨頂で、信仰が生活の基盤をなしている。ピューリタンのPilgrim Fathersから始まる建国の歴史を持つアメリカでは、プロテスタントが主流である。
新天地を開拓していく人々にとっては、まさに命がけの日々であり、心の支えが不可欠であり、それがキリスト教の信仰であった。
このアメリカのキリスト教を背景にして生まれたのが、反知性主義である。1963年のRichard Hofstadterの“Anti-intellectualism in American Life”(『アメリカの反知性主義』、1963年、みすず書房、邦訳2003年)を読むと、このことがよく分かる。
ホフスタッターは、反知性主義をマイナスのイメージをもって捉えているわけではない。中世を経ずに一足飛びに近代へ移行したアメリカでは、プロテスタントの信仰、民主・平等という価値が反知性主義を生むことになる。生物学や化学、そして私の政治学を聴講した後に、聖書の寸劇に精を出す「古き良きアメリカ」こそが、多くのアメリカ国民のトランプ支持の背景にある。