財政赤字分を含めると6割超

 1970年代に登場した国民負担率という指標は、国民に過度な負担をかけないためにはどうしたらいいのか、という議論の材料として使われてきました。福祉や医療、介護などの公共サービスを維持するためには一定程度の国民負担が避けられないものの、負担が重くなり過ぎると、国民の勤労意欲が衰えてしまい、社会全体の活力が失われていくからです。

 1980年代に行政改革の方向性を示した「第2次臨時行政調査会」(第2臨調)は、受益と負担という観点からすれば、国民負担率がある程度上昇するのはやむを得ないとしつつ、その上限は40%程度とし、危機的な場合でも45%以下にとどめなければならないとの方向性を示していました。

 第2臨調を引き継ぎ、1990年代に行政改革の方針を取りまとめた「臨時行政改革推進審議会」(行革審)も、政府のムダを見直すことで徹底した行財政改革を進めるべきだとの方針を堅持。最終答申では、21世紀に高齢化のピークを迎えても国民負担率は50%を超えてはならないとの見解をまとめました。

 しかし、前述のように国民負担率はすでに50%が目前です。それどころか、国民負担率には含まれていない財政赤字を加味した「潜在的国民負担率」は、財務省の資料によると、すでに2011年には50%を突破して50.3%に到達。数字はその後、上下を繰り返していますが、2020年には60%を超え、62.7%になっていました。

 日本の国民負担率はOECD加盟36カ国中22位であるとのデータを財務省は公表しています。それだけを見れば、日本はまだ大丈夫なのかもしれないと思いたくなるかもしれません。しかし、負担に見合った公共サービスを実施できているかどうかは全くの別問題です。しかも本格的な高齢化社会の到来は目前。「(日本の国民負担率は)必ずしも高いものではない」(石破首相)という立場が妥当かどうかも含めて、早急な対策が必要なことは間違いありません。

フロントラインプレス
「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo!ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。