選挙活動が収益化されてしまう時代
れいわ新選組も、票の取れる山本太郎さんら党幹部が議席を確保した後に山本さんが辞職し、党を支える幹部など候補者に議席を譲る仕組みを活用していますが、NHK党の場合、ここで確保される議席を立花孝志さんへ資金援助する知名度のない人物に「売る」可能性が強く示唆されています。
この構図は、先日亡くなった選挙プランナーの藤川晋之助さんが、著名人のデヴィ夫人を参院選で担ぐ計画を発表した『ワンニャン平和党』構想でも同様です。
こちらも新党の大口スポンサーである堀池宏さんがリスト次点に入り、帰化できたデヴィ夫人が犬猫愛護のシングルイシューで議席を確保できた暁には、早期に議員辞職し、堀池さんに譲るメソッドなのではないかとも予想されます。
我が国の公職選挙は、制度としてかなりの部分が性善説によって成り立っています。ところが、選挙活動がネットでの動画再生数に紐づいて収益化できてしまうと、公職選挙法という制約の中で候補者が平等に選挙戦を戦う構造が崩れます。
二馬力だろうが三馬力だろうが自由に選挙に介入できるだけでなく、立候補している選挙地域以外から投票権もない他の国民や海外勢力でさえも選挙に影響のある情報を提供できてしまいます。兵庫県知事選で起こったことは紛れもなくこういう事態であって、誰も予想もしていなかった不公平に直面し、仕組み自体が揺らいでいるというのが現実なのです。
結果的に、耳あたりの良い大きな物語性(ナラティブ)に踊らされた支持者が大きなうねりとなり、誹謗中傷やガセネタを大量にリポストし、再生回数を回し、アテンションエコノミーの悪しき側面によって、民主主義社会のインフラである選挙制度が公平な信頼を損なうことになっているのは極めて問題です。
立花孝志さんをはじめとした人々が現状の問題に関する報道に文句を言う資格はありません。当事者として問題を追及される側なのだという点を、まずは理解してもらわなければならないでしょう。
山本 一郎(やまもと・いちろう)
個人投資家、作家
1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し、『ネットビジネスの終わり(Voice select)』『情報革命バブルの崩壊 (文春新書)』『ズレずに生き抜く 仕事も結婚も人生も、パフォーマンスを上げる自己改革』など著書多数。
Twitter:@Ichiro_leadoff
『ネットビジネスの終わり』(Voice select)
『情報革命バブルの崩壊』 (文春新書)
『ズレずに生き抜く 仕事も結婚も人生も、パフォーマンスを上げる自己改革』(文藝春秋)