密猟され“ブッシュミート”になるゴリラ

 ゴリラは2種いる。アフリカ西部の低地で生きるニシゴリラと、中央部の山地を住み処にするヒガシゴリラである。ニシゴリラは丸顔で、頭の毛が茶色い……推定個体数は30万頭以上で、いま日本の動物園で会える20頭も全部ニシゴリラだ。けれど今や、学術目的以外での輸出入はワシントン条約で禁止された。1990年のピーク時には50頭いたが、年々減り続けている。日本からゴリラが消える日は、そう遠くないのかも知れない。

 一方ヒガシゴリラの数は、多く見積もっても5000頭くらい。もっとも絶滅の惧れがある動物のひとつだ。ヒガシゴリラにはマウンテンゴリラとヒガシローランドゴリラ(グラウアーゴリラとも。東部低地に生息)の2亜種があり、ヒガシローランドゴリラを保護するために設立されたのが「カフジ・ビエガ国立公園」(登録1980年、自然遺産)である。

生息数が激減しているヒガシローランドゴリラ KBNP, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

 カフジ山(標高3308m)とビエガ山(標高2790m)という2つの活動を終えた火山を有し、低地に熱帯雨林・中腹に竹林が広がり、幾つもの沼地や湿原もある。ゴリラ・ツアーは、1970年代にこの公園から始まった。餌付けをせずに、同じ群れと観察者がずっと一緒にいることで人に対する恐怖心をなくし、自然な行動を観察できるようにする――この“人づけ”によって、ゴリラ・ツアーは可能になったのだ。カフジ・ビエガの森は、コンゴ東部だけに生息するヒガシローランドゴリラを見られる唯一の国立公園である。

 しかし内戦が鎮まった束の間2012年の映像には、ゴリラたちの悲しい現実が捉えられていた。左手のない子、足を引きずる子……森にワナを仕掛ける密猟者がいるのだ。殺した野生動物は自らが食べるか売りさばく。もちろんゴリラも。それらの肉は“ブッシュミート”と呼ばれ、公然と市場に出回ることもある。

 森のすぐ隣まで畑が迫っていた。危機に追い打ちをかけるのは、木炭だという。家での調理や暖房に使われるのは、ほとんどが木炭で、周辺に暮らす人々が炭にするために、木々を伐採してしまう。さらに問題なのは、武装勢力がこの木炭をビジネス化していることだ。公園レンジャーは違法取引の摘発に乗り出し、袋詰めされた木炭を押収している。

 カフジ・ビエガの森は、古来トゥワと呼ばれる狩猟採集民(かつては「ピグミー」と総称され差別された)の生活の場だった。彼らは、国立公園ができると外へと移住させられた。そんなトゥワの森の知識を活用するために、ここではゴリラのトラッカー(追跡者)として雇い、住み慣れた森で仕事ができるようにしている。

 世界遺産は、不動産の保護制度ではあるが、一番大切なのは「そこに住む人(生物)を守る」こと。トゥワやゴリラが消えてしまっては意味がない。ゴリラが生きられないような世界は、きっと人間も生きられない。

 カフジ・ビエガ国立公園は、人の世を映し出す“鏡”である。

(編集協力:春燈社 小西眞由美)