ほしいまま、思うままに

 最後に、北尾重政の画姓の由来を取り上げたい。

 画姓の「北尾」の由来は明らかでないが、大坂の浮世絵師・北尾辰宣(きたおときのぶ)の影響だとみられている。

 北尾辰宣の落款には、頭に「擅画(せんが)」の二文字が入っていることが多かった。

 擅画とは、「ほしいままに描く」という意味である。

 師をもたず、独学によって北尾派の祖となった重政にとって、擅画という言葉は、琴線に触れたのだろう。北尾辰宣に倣い、重政も明和5年(1768)頃から、「擅畫(せんが) 北尾重政」の落款を、たびたび用いている。

 重政は北尾辰宣を私淑し、画姓を北尾と称するようになったのかもしれないという(以上、林美一『林美一 江戸艶本集成・第四巻 北尾重政』)。

 ほしいまま、思うままに、重政は絵を描くことができたのだろうか。