アサンジが暴露したヒラリーのオフレコ発言

 2016年の大統領選に敗れたヒラリー・クリントン国務長官(当時)だ。

 この事実は2016年、米国家機密情報を暴露したジュリアン・アサンジ氏がクリントン氏の私的メモを見つけ出し、ウィキリークス(2016年10月16日付)で明らかにした。

 ヒラリー氏が完全オフレコを条件に発言したのは、大手金融機関ゴールドマン・サックス関係者による会合の席上だった。

 話題が、中国が「南シナ海」に軍事的プレゼンスを展開している情勢に及んだところで、ヒラリー氏が訪中した際(2012年9月)の中国政府高官(おそらく楊潔篪外相=当時)との会談の内容についてこう発言した。

「なぜ中国はあの海域を勝手に南シナ海と呼ぶのか。私は中国政府高官に問いただした」

「我々は第2次大戦で勝利し、太平洋を解放し守ってきた。我々は北米大陸の西海岸からフィリピンまでの海域を『アメリカ海』と呼んでおかしくはない」

(編集部注:ヒラリー氏は「American Ocean」ではなく「American sea」と呼んでいる)

Hillary Clinton Liked Covert Action if It Stayed Covert, Transcript Shows - The New York Times

 大統領選立候補を念頭に入れて愛国心をくすぐるための「太平洋」改称論だったのだろうか。この点では保守派トランプ氏もリベラル派ヒラリー氏も共通していたのである。

 ヒラリー氏が大統領になった時、就任早々に大統領令を出して、この「太平洋」改称をぶち上げたかどうか、こればかりは分からない。

 だが、冒頭に触れたヒラリー氏の「あざけるような笑い」の謎を解くには参考になりそうだ。

「メキシコ湾のようなちっぽけな話でなく、どんと太平洋改称でもぶち上げなさいよ」と受け取れないこともない。

 敵も味方も見境なく関税恫喝外交を打ち出すトランプ氏の真の狙いは、巨大化する中国の脅威に身構えるため、といった解説がワシントンにはのさばっている。

 それならば、私(ヒラリー氏)が中国に突きつけた「太平洋→アメリカ海」改称ぐらい言ってみたらどうなのよ、といったミステリアスな笑いなのかもしれない。

 トランプ氏にとっては「天敵」のヒラリー氏だ。唆されれば、明日にでも「アメリカ海」構想を打ち上げるかもしれない。

 当代屈指の米コラムニスト、「ジ・アトランティック」のデイビッド・フラム氏はトランプ氏の「メキシコ湾」改称についてこう論じている。

「この決断は、まさにトランプ時代を記憶するには最適な記念碑となるだろう」

「トランプ氏の帝国主義的傲慢さは知らず知らずのうちに帝国の衰退に対する不安感を露呈していると言っていい」

「敗者になっているのに勝者のように振る舞っているのだ」

The ‘Gulf of America’ Is an Admission of Defeat - The Atlantic