国民の10人に1人が編み物

 直近の2021年に実施された総務省・社会生活基本調査によると、「趣味・娯楽」(旅行やスポーツを除く)のうち、「編み物・手芸」を楽しんだ人は、2021年調査で991万人を数えました。全体の8.8%です。およそ国民の10人に1人近くが編み物や手芸を楽しんでいることになります。

 この数字は、「園芸・ガーデニング」(2921万人)や「楽器演奏」(1142万人)よりは少ないものの、国民のメジャーな娯楽である「キャンプ」(680万人)や「コンサートでの音楽・歌謡曲鑑賞」(662万人)よりは多くなっています。いずれにしろ、かなりの数といっていいでしょう。

(写真:New Africa/Shutterstock.com)

 もっとも、長い目で見ると、「編み物・手芸」人口は減少が続いています。5年毎に行われている同調査をひも解くと、2006年は1239万人、2011年は1157万人。2016年はわずかに持ち直して1198万人になったものの、2021年にはとうとう1000万人の大台を割り込んだわけです。

 世界的には編み物自体の起源は古く、糸や植物のツル、竹などを「編む」技は、石器時代から存在したとされています。現代と同じ用に毛糸や麻糸などを使用する編み物は17世紀ごろから欧州で広く行われるようになり、日本でも明治時代から本格的に始まりました。

 明治時代の編み物は、女性が職業人として社会進出する際に必要な技術と考えられていたようです。当時の日本は先進の欧米諸国に追いつこうと、「殖産興業」を掲げて産業の離陸を図ろうとしていた時代で、その軸の1つが繊維工業でした。

 そのため明治時代の東京では、東京女子手芸学校や共立女子職業学校(現・共立女子大学)、青山女子手芸学校(青山学院大学の源流の1つ)などが相次いで設立されました。このうち、「青山」の開設に関わった宣教師フローラ・ハリスは、当時の日本女性の地位の低さに驚き、女性の手に技術を持たせ、自活の道を開かせることが何よりも重要だと考えていたとの記録が残っています。