過去に選ばれた盛岡、山口はその後どうなった?

 さて、まだまだ紹介しきれないほど魅力にあふれる富山市だが、これまで外国人観光客の滞在はほぼないに等しかった。

 富山駅で新幹線を降りる外国人たちが向かうのは立山の「雪の大谷」や隣県・岐阜県の飛騨高山・白川郷に向かう人たちが大半。富山市は通過ポイントでしかなかったのだ。それが今回のNYタイムズ紙の紹介記事でどう変わっていくのか。

外国人がよく行く「雪の大谷」(筆者撮影)

 幸い、今の段階では富山市は、京都市や鎌倉市などと違ってオーバーツーリズムとは無縁である。東京からのアクセスの良さや市内の豊富な魅力をSNSなどを通じて市の観光当局が上手に情報発信していけば、外国人客の滞在、宿泊を飛躍的に伸ばすことが可能かもしれない。

立山・室堂界隈にも外国人ハイカー(写真:筆者撮影)

 過去に選ばれた盛岡市では、NYタイムズ紙の報道を受けた2023年の観光入り込み客数は430万人と前年比16.3%増となった。外国人宿泊客数は6万5082人で前の年の約9.5倍に膨れ上がりコロナ禍前の水準に戻した。

 昨年選ばれた山口市も、2024年1月~8月にかけて湯田温泉に宿泊した外国人が前年比1.4倍に増えたほか、今年1月下旬には『地球の歩き方』シリーズで「山口市」を出版することが決まったという。単独の市としては北九州市、横浜市に次いで3番目。これもNYタイムズ効果の表れか。

 今回の報道直後、富山に長年住む60代の女性は、こんな感想を漏らしていた。

「珈琲駅ブルートレインは、息子が小さいころ模型を見せるためによく連れて行きました。NYタイムズの方がよくこんなレトロな店に気が付きましたね。私たちは“なんもない富山”と思っていたので、とにかくびっくりしました」

 市民でもなかなか気付かない、日常生活の中にある地方都市の伝統と魅力。立山や金沢、騨高山・白川郷に足を向けていた外国人観光客が足元のコンパクトシティに目を向ける日は近いかもしれない。

雪が降る富山市内を走る路面電車(2023年1月撮影)雪が降る富山市内を走る路面電車(2023年1月撮影、写真:共同通信社)

【山田 稔(やまだ・みのる)】
ジャーナリスト。1960年長野県生まれ。日刊ゲンダイ編集部長、広告局次長を経て独立。編集工房レーヴ代表。主に経済、社会、地方関連記事を執筆している。著書は『驚きの日本一が「ふるさと」にあった』『分煙社会のススメ。』など。最新刊に『60歳からの山と温泉』がある。東洋経済オンラインアワード2021ソーシャルインパクト賞受賞。