ブルガリアにとってユーロ加盟の妨げにも

 ロシア系企業の多くが資産移転を目的とするペーパーカンパニーであるとしたら、ブルガリアにとっては、あまり喜ばしい話ではない。そうした企業はブルガリアで雇用を生まないし、所得も生み出さない。資金洗浄(マネーロンダリング)との兼ね合いも意識され、対ロ制裁を重視するEUや米国との関係の悪化にもつながりかねない。

 それに、ブルガリアはユーロ導入を目指している。ユーロを導入するためには、物価や金利に代表されるマクロ経済上の条件が達成されているかのみならず、金融行政が適切に行われているかを欧州銀(ECB)から評価されることになる。ロシアからの資産移転を許すようでは、ECBはブルガリアの金融行政が適切であるとは評価しないだろう。

 いずれにせよ、実態が不明な企業が増えているということ自体、本来であれば、ブルガリア政府にとって看過しがたい出来事である。ブルガリア政府がそれを戦略的に容認しているとも考えにくいが、一連の事実は、脱ロシアの号令の下でも、EUの規制が及ばない範囲において多額のロシアマネーが動いている可能性をうかがわせるものといえよう。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。

【土田陽介(つちだ・ようすけ)】
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)調査部副主任研究員。欧州やその周辺の諸国の政治・経済・金融分析を専門とする。2005年一橋大経卒、06年同大学経済学研究科修了の後、(株)浜銀総合研究所を経て現在に至る。著書に『ドル化とは何か』(ちくま新書)、『基軸通貨: ドルと円のゆくえを問いなおす』(筑摩選書)がある。