その一つの理由として考えられるロシアからの資産移転

 一つの可能性として考えられるのは、そうした登記の多くは、いわゆるペーパーカンパニーではないのか、ということである。つまり、一部のロシアの資産家が、その資産を移転することを目的とした法人ではないか。

 ブルガリアやチェコは、まだユーロに加盟していない。そのため、非ユーロ圏の事業者との非ユーロ建ての決済は、欧州中銀(ECB)を通じてではなく、自国と相手国の決済網を通じて行うことになる。

 ロシアから直接、公式のルートを用いてブルガリアやチェコに資産が移転されるとは考えにくいが、第三国を経由すればやりやすいかもしれない。

 ブルガリアとチェコの通貨が極めて安定していることも、資産移転を促しているように推察される。

 ブルガリアはカレンシーボード制(中銀が持つ外貨建て資産と同額相当の現預金しか市中に流通させない制度)に基づく固定レートをユーロとの間で導入しているし、チェコは安定したマクロ経済運営を通じて通貨の安定を図っていることで知られる。

 ロシアの資産家は、ロシア以外でも多額の資産を有していると言われている。そうした資産を、ブルガリアやチェコで登記したペーパーカンパニーに付け替えれば、米欧による経済制裁を回避できる。多かれ少なかれ、こうした動機の下に、ブルガリアやチェコでロシア系企業の登記が急増している可能性が考えられる。