「キリスト教ナショナリズム」とはなにか?
主要メディアはこぞってバディ主教を取り上げ、その勇気を称えた。トランプ氏は礼拝直後こそ攻撃的な態度を見せなかったものの、深夜になり自身のSNSでバディ主教を「いわゆる司教」と揶揄(やゆ)し、トランプ嫌いの急進左派だとののしった。さらに主教の説教が「えげつない口調だった」ともこき下ろしているが、動画を見ればこれがいかに荒唐無稽な言いがかりかがわかる。
バディ主教の説教が「えげつない」口調であったのなら、最近グリーンランドの所有権をめぐり度々トランプ氏から脅しをかけられているデンマークの欧州議会議員がつい先日「(グリーンランドは)売り物ではない。トランプどの、あなたにわかりやすい言葉で言うならF—-Offだ」と言い放った一文は、一体どう定義されるのだろうか。
トランプ氏は先の投稿でバディ主教に謝罪を要求したが、主教はメディアの取材にこれを明確に拒否。そして、トランプ支持者らによって殺害予告まがいの脅迫まで受けていることも明かした。
トランプ支持者は主教を過激な言葉で一斉に批判した。一般人の陰謀論者ならいざ知らず、ジョージア州の下院議員までもが、米国生まれの米国人であるバディ主教について「この説教をしたものを国外追放リストに追加せよ」とXに投稿した。バディ主教は、トランプ派が排除しようとしている移民ではない。この議員の言動はつまり、気に入らない人間は誰でも大統領権限で追い出せというトランプ派のいじめ体質を明確にしている。

トランプ氏やその支持者らがバディ主教の説教にヒステリーを起こしたのは、「自身らが信じる」キリスト教とは異なる見解を、主教によって明確に示されたからだろう。主教の説教は、「隣人を愛せよ」というごく当たり前のキリスト教的価値観に基づくものだ。だが、それは一部のトランプ支持者らを支える思想として指摘されている「キリスト教ナショナリズム」と相容れない。
宗教的過激主義などの専門家によると、「キリスト教ナショナリズム」とは国家が建国からキリスト教国家であり続けなければならないという考えに基づいたイデオロギーである。キリスト教的価値観に基づいた法律を定めるべきとし、また「本物の」米国人であるためには、キリスト教徒であることが重要だと位置付けるものだという。
米国におけるキリスト教ナショナリストは白人の福音派と関連づけられることが多く、トランプ氏の提唱する「米国を再び偉大に(MAGA)」ムーブメントの支持基盤とも言われる。
就任式前夜には、こんな光景が見られた。ワシントンでトランプ氏支持者らによる大規模な「勝利集会」が開かれ、2人の白人女性による祈りで幕を開けた。
女性らは人気キリスト教ポッドキャスト「Girls Gone Bible」(日本語でわかりやすく言えば「聖書女子」だろうか)を主催するハリウッド女優だ 。インスタグラムで95万人のフォロワーを誇るインフルエンサーである。
2023年5月にポッドキャストを始めた当初は「キリスト教的謙虚さ」には程遠い、巨乳をあらわにした服装や、尻をカメラに向けた画像などをSNSに載せたこともあり、敬虔な信者から「個人的な利益のため主を利用している」と批判されたこともある。Girls Gone Bibleサイトではグッズ販売もしているようだ。