「米国の血を吸うのをやめろ」
一連の動きの中では、米国鉄鋼2位のクリーブランド・クリフスもUSスチールの買収に乗り出そうとしているとの報道が相次いでいます。米CNBCテレビによると、クリーブランド・クリフスは米鉄鋼最大手のニューコア・コーポレーションと協調し、1株当たり30ドル台後半でUSスチールの買収を検討しているとされています。ただし、日本製鉄による買収価格の1株55ドルを大きく下回る金額で、USスチール側もおいそれと乗れる話ではありません。
それでもクリーブランド・クリフス側の意欲は衰えないようです。
同社のゴンカルベスCEOは1月13日に会見し、「中国は悪だ。中国は恐ろしい。しかし日本はもっと悪い。日本は中国に対してダンピングや過剰生産の方法を教えた」などと激しい調子で日本批判を展開しました。そして第2次世界大戦を念頭に「日本よ、あなたたちは自分が何者かを理解できていない。1945年から何も学んでいない。米国の血を吸うのをやめろ」と強調。そのうえでUSスチールの再建について「われわれには米国流の解決策がある。米国がUSスチールを救うのだ」と強調しました。
ゴンカルベスCEOの会見の様子は、日本でも広く報道され、時代錯誤にも映る“反日演説”は多くの日本人を驚かせる結果にもなったようです。
一方、「バイデン後」を引き継いだトランプ大統領はどんな姿勢を見せているのでしょうか。
トランプ氏は大統領選での勝利が決まった後の2024年12月2日、自ら経営する企業が立ち上げたSNS「Truth Social」(トゥルース・ソーシャル)でUSスチールの買収計画について初めて具体的に言及し、「かつては偉大で強力だったUSスチールが、外国の企業、今回は日本製鉄に買収されることに全面的に反対する」と表明しました。さらに同じ投稿で「大統領として私はこの取引を阻止する」とも記しています。
ただ、トランプ政権の財務長官に指名されているベッセント氏は、仮に、日本製鉄によるUSスチールの買収計画が再び申請された場合、「(審査機関のCFIUSは)通常どおりに審査を実施するだろう」と述べました。
プレーヤーが増え、糸が複雑に絡み合ってきたようにも見えるこの買収計画はこの先、いったいどう展開するのでしょうか。バイデン氏を訴えた訴訟は2月3日から書面によるやりとりが始まることになっています。
フロントラインプレス
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