大統領を訴える前代未聞の裁判
買収禁止命令を出した時点で、バイデン氏に残された任期は20日足らず。それでも次期大統領のトランプ氏に判断を任せず、自ら禁止の判断を下しました。その背景には「民主党の強固な支持基盤である労組側の意向をくんだ」などの理由があると言われています。
買収計画を否定された日本製鉄とUSスチールの反応は激烈でした。

両社はその日のうちに「米国政府による不適法なUSスチール買収禁止命令に反対する共同声明」を発表。「失望した」と強調し、次のように述べています。
「この決定は、バイデン大統領の政治的な思惑のためになされたものであり、米国憲法上の適正手続き及び対米外国投資委員会(CFIUS)を規律する法令に明らかに違反しています。大統領の声明と禁止命令は、国家安全保障問題に関する確かな証拠を提示しておらず、今回の決定が明らかに政治的な判断であることを示しています」
共同声明の末尾で自らの計画遂行のためには「あらゆる措置を追求」していくとした両社は、実際にさらなる措置に出ました。バイデン氏の命令から3日後の1月6日、CFIUSの審査手続きが法律に違反しているほか、審査の過程で違法な政治的介入があったなどとして、取引禁止命令の無効を求める訴訟をコロンビア特別区連邦控訴裁判所に起こしたのです。
訴えのなかで両社は、買収反対を続けてきた全米鉄鋼労働組合のマッコール委員長、競合メーカーのクリーブランド・クリフス社などがバイデン大統領に違法な政治的介入を働きかけたと主張しています。
日本の一企業が米国の大統領を訴えるのは前代未聞のことです。
日本製鉄の橋本英二代表取締役会長は記者会見で「バイデン大統領の違法な政治的介入により今回の大統領令に至ったのであり、到底受け入れることはできない」と強調。日本製鉄とUSスチールの関係は引き続き強固であり、関係が崩れることはないと言及しました。そのうえで次のように述べています。
「当社の技術・商品を米国に投入することで、現在は米国で十分につくれていない鋼材もできるようになる。ひいてはアメリカの国家安全保障の強化に資すると考えている。米国での事業遂行を決してあきらめることはない。あきらめる理由もない」