大統領令を生成AIで作成した疑惑は本当か?
トランプ大統領と生成AIに関する疑惑と言えば、この連載でも紹介した、メラニア夫人による「声明文生成疑惑」が思い出される。
トランプ大統領はまだ候補者だった2024年7月14日、ペンシルベニア州の選挙集会で銃撃を受け、軽傷を負った。そんな夫に対し、事件発生直後にメラニア夫人が声明を発表しているのだが(現在も確認可能)、これがChatGPTを使って生成されたものではないかと指摘されたのである。
それがどれだけ確からしいかは、以前の記事をご参照いただければと思うが、いずれにせよ夫人が重要な文書の作成にAIを使っていたのだとすれば、大統領本人、あるいはその身近なスタッフが使用していたとしてもおかしくない。
では、今回の指摘はどのような内容なのだろうか。それを紹介する前に、大統領令のフォーマットについて確認しておこう。
米国における弁護士や法律実務家の職能団体であるABA(American Bar Association:アメリカ法曹協会)のウェブサイトに、大統領令の概要を説明する記事が掲載されている。
それによると、「大統領令のフォーマット、内容、文書化は、米国大統領の歴史を通じて変化してきた」のだが、現在では「大統領令は一定のフォーマットと、厳格な文書化システムに従っている」のだという。その形式に関する説明を抜粋しよう(翻訳は筆者による)。
ホワイトハウスの報道官室から発表される大統領令、連邦官報に掲載される大統領令、タイトル3の下で印刷される大統領令、あるいはHTMLテキストとしてデジタルアーカイブで見られる大統領令には、フォーマットの違いがある。しかしソースに関係なく、すべてのフォーマットには、行政命令文書の中心となる基本的な構成要素が含まれる。以下はその構成要素の概要だ。
概要とはいえ説明が少し長いため、ここからの抜粋は筆者が一部要約している。
1. 見出し:大統領令は通常「大統領令」と明記され、番号と発行日が記載される。
2. タイトル:各大統領令にはタイトルが付けられ、それは通常、その命令が何に関するものであるかを示している。
3. 序文:序文は通常、「アメリカ合衆国憲法および法律により、大統領として私に与えられた権限に基づき」といった表現で始まり、その後、命令の内容が紹介される。序文は通常、命令を正当化する役割を果たし、「よって(whereas)」や「したがって(therefore)」といった伝統的な法律の序文に似た形式を取ることもある。
4. 本文:大統領令の命令内容は、セクションやサブセクションに分けられ、それぞれが一般的なアウトラインに従って番号やアルファベットで示されている。各セクションでは、命令の内容、命令を実現するための具体的な行動手順、調査や評価などの指示が詳述される。サブセクションでは、関連する定義などの詳細が補足される。
5. 署名:大統領令は、発令した大統領によって署名される。
前置きが長くなったが、「生成AI使用疑惑」を主張する人々の実際の指摘を確認していこう。