カーナビを使うようになって道を覚えなくなった人は多い(写真:show999/イメージマート)カーナビを使うようになって道を覚えなくなった人は多い(写真:show999/イメージマート)

 カーナビが普及したことで、道順や道の名前、交差点の名前などを覚えなくなったという人は多いのではないだろうか。このように人間の能力の一部を代替するテクノロジーが登場した結果、人間の側が代替された能力を失ってしまうという状況は以前からある。実はいま、生成AIを巡って同じことが起きている。生成AIが代替しているのは「考える」という能力だが、それが失われてしまうのだろうか。(小林 啓倫:経営コンサルタント)

テクノロジーに頼る人間

 古い調査結果で恐縮だが、2007年6月にNTT-BJが実施したアンケート調査によると、回答者の80.5%が「ここ数年で電話番号を覚えられなくなった」と答えた。その理由として、「携帯電話のメモリに番号を記録しているから」がトップだったという。

 それから20年が経過しようとしているいま、この数字はさらに100%に近づいていることだろう。あえて紙の手帳に電話番号を書き留めたり、ましてや頭で記憶しようとしていたりする人など、ごく少数派のはずだ。

 そうした人々を揶揄するつもりはまったくない。筆者もその一人であり、最近ではごくわずかな家族の電話番号を除けば、記憶だけで電話をかけることなど不可能だ。

 スマホのアドレス帳に必要な電話番号はすべて格納されており、それを呼び出すだけで事足りる。なのに、あえて紙に書いたり暗記したりするのは、万が一のためのバックアップ用という理由を除けば、無駄でしかないだろう。

かつては電話番号を電話帳に書き込んでいた(写真:PantherMedia/イメージマート)かつては電話番号を電話帳に書き込んでいた(写真:PantherMedia/イメージマート)

 こうした事例、つまり人間の能力の一部を代替するテクノロジーが登場したことで、人間の側が代替された能力を失ってしまうという状況は、他にも各所で見られる。

 たとえば、カーナビ普及以前からクルマを運転されていた方々であれば、その登場後に、道順や道の名前、交差点の名前などを覚えなくなったという方が多いのではないだろうか。これから自動運転が普及すれば、道を覚えることはおろか、クルマの運転技術すら忘れてしまうという人も増えてくるだろう。

 そこに登場するテクノロジーが問題なく動いている限り、代替された機能(電話番号や道順を覚えるなど)をあえて人間側で維持している必要はない。そうして人間は、浮いた労力で別のことをするようになってきたわけである。

 では、同じことが、ChatGPTのような生成AIにも起きるのだろうか。