明らかになった「批判的思考能力」の低下傾向
彼らはまず、英国で質問票形式のアンケート調査を行い、666人からの有効回答を得た。参加者の年齢層は17歳から55歳以上までと幅広く、学歴も高卒から博士課程まで、さらに職業も学生、管理職、専門職と多様だ。
質問内容はさまざまなAIツールの利用頻度や利用内容に関するもので、そこからAIに何らかの作業を委託する傾向と、彼らの批判的思考能力の程度が分析された。
ひとくちにAIといってもさまざまな種類があるが、今回調査の対象となったのは、主に情報検索や意思決定を目的としたツール類だ。ChatGPTのような対話型AIや、AlexaやSiriのようなアシスタント系AI、さらにはYouTubeのおすすめ動画機能やAmazonの商品提案なども含まれている。
いずれも人間による情報の取捨選択を代替してくれるもので、それらの使用頻度と、批判的思考能力の関係性が調べられたわけである。
さらに、研究者らは定性的なデータを得るために、その後、50人を対象にインタビューを実施した。それにより、AIをどのように使っているか、どのようなタスクがAIに任されているかについて、より具体的な情報を収集したのだ。
その結果、彼らは「AIツール利用と批判的思考能力の間に強い負の相関」が見られたと結論付けている。言い換えれば、「AIツール利用頻度が高いほど、批判的思考能力が低下」する傾向が確認されたということである。
これは個々の事例から類推されたのではなく、600人を超える参加者の全体的な傾向として把握されたという点が重要だ。
この傾向を生じさせたメカニズムとして、研究者らは「認知的オフローディング」の存在を挙げている。
「オフローディング」とは荷物を下ろすこと、転じて何らかの作業を誰かに代わってもらうことを意味し、ここではAIに認知的タスク(情報の収集や記憶、分析、判断など)を肩代わりさせることを指す。
つまり「考える」作業をしてくれるテクノロジーが現れたことで、人間が考えるのをやめてしまい、批判的思考能力が低下しているという、冒頭の事例で挙げたのとまったく同じ構図が見られたのだ。
ちなみに、この傾向は年齢と教育レベルに影響され、若年層(17-25歳)が最もAIに依存し、批判的思考能力が低いこと、また教育レベルが高いほど批判的思考能力が高く維持されていることが確認されたそうである。