認知的オフローディングを回避する方法
若者のように「AIは正しい答えを返してくれるのだし、いろいろなタスクを任せてしまって大丈夫」という姿勢を持つのではなく、教育レベルの高い人々のように「AIは間違えることも多いから、念のため自分でも考えておこう」という姿勢でAIツールを使うこと。つまり「任せきり」にしないことで、認知的オフローディングは回避できる。
カーナビにたとえて言えば、ナビゲーションが提案してくる経路を鵜呑みにするのではなく、本当にその経路で正しいのかどうかを自分で考えてから「受け入れる」「受け入れない」を決めるということになる。
これは当たり前の行動に思えるが、常に実践できるとは限らない。実際にカーナビで言えば、カーナビの経路を信用し過ぎるあまり、危険な地域に迷い込んで死亡事故が起きるという事例まで発生している(詳しくは前掲の過去記事を参照)。
目の前の道が崖に続いているというのに、カーナビに誘導されるがまま前進し、真っ逆さまに転落してしまう──。そのような事例が現実に起きているというのに、何が正解か簡単には分からない問題において、ChatGPTの出してきた答えに潜むリスクを正しく把握できるだろうか。
それは非常に難しい挑戦だ、と言わざるを得ない。ただ、ChatGPTを使うとき、私たちの目の前には「目に見えない崖」が広がっているのだという意識を持つだけでも、認知的オフローディングを無意識に行ってしまうことを回避できるだろう。
そして、今回の論文が正しければ、認知的オフローディングを行わない限り、私たちが批判的思考能力を失うことはない。
マイクロソフトは自社の生成AI系ツールやサービスに「コパイロット(副操縦士)」という名前を付けているが、これは最適な呼び名だろう。AIを使うとき、彼らに私たちの人生を左右する操縦桿を握らせてはならない。行動の責任を負うのは、あくまでパイロットである私たちなのだから。
【小林 啓倫】
経営コンサルタント。1973年東京都生まれ。獨協大学卒、筑波大学大学院修士課程修了。
システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業、大手メーカー等で先端テクノロジーを活用した事業開発に取り組む。著書に『FinTechが変える! 金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』『ドローン・ビジネスの衝撃』『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(草思社)、『データ・アナリティクス3.0』(日経BP)、『情報セキュリティの敗北史』(白揚社)など多数。先端テクノロジーのビジネス活用に関するセミナーも多数手がける。
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