確固たる政治信条があるのか怪しい

 ヴァイデル氏には他にもトランプ氏に通じる資質が垣間見える。同氏はエコノミストであり、ゴールドマン・サックスなどに勤務した経歴を持つが、英フィナンシャルタイムズ紙は今月、ヴァイデル氏の人となりについて元同僚の証言を得ている。同紙に実名でコメントした男性によれば、20年ほど前までヴァイデル氏は極右的思想など見せていなかったとしている。強いて言えば、ユーロ懐疑派だったと言う。 

 その上で、ヴァイデル氏が望む「進化」を遂げるには、その歩みが遅い中道右派よりもAfDの方が早く、それが入党の理由だと話したとしている(ヴァイデル氏側は後にこの発言を否定)。その進化が何かは明確にされていないが、この男性はヴァイデル氏について「それ(AfD入党の決断)には多分にご都合主義が存在したと思う」と証言している。

ヴァイデル氏はマスク氏との対談で支持を取り付け勢いが増している(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 確かに、AfDが伝統的な家庭像を「男女の婚姻関係」と定義したり、高らかに移民排斥を唱えたりしているのにもかかわらず、ヴァイデル氏本人は同性愛者であり、パートナーはスリランカ出身の移民女性である。党のマニフェストには、多様性やジェンダー平等を否定する見解も示されており、ここにもAfD党首としてのヴァイデル氏のあり方に大きな矛盾が生じている。他者はダメだが自分は良いというのはご都合主義的であり、ヴァイデル氏に確固たる政治信条などないに等しく思われる。 

 この点でも、例えば女性の人工妊娠中絶に関してコロコロ言うことの変わるトランプ氏に酷似している。まさしく「女トランプ」の称号にふさわしいと言えるだろう。

 かくして、ドイツも米国のようにご都合主義の女トランプが政治を大混乱に陥れる二の舞を踏むのだろうか。救いは、ドイツにはいまだAfDへの拒否反応を示し、抗議活動に出る市民が多数いることだ。ヴァイデル氏がリマイグレーションを堂々と公言した地方集会には1万人もの市民がバリケードを作り、開始が遅れるという事態に発展した。