開き直り「リマイグレーション」を公言

 この謀議に加わっていたのが、オーストリアの極右活動家でインフルエンサーのマルティン・ゼルナー(36)という男だ。一時期ニュージーランドの白人至上主義者のテロリストとも友好関係にあり、極右推しのマスク氏のX以外のSNSからは使用禁止措置を受けている。

AfDが配った偽の片道航空券。「乗客名」には「不法移民」と記されている(写真:ロイター/アフロ)

 ゼルナーらは違法、合法を問わず、極右思想家らの意に染まない移民をまとめて国外へ移送することを「リマイグレーション」として提唱している。昨年の米大統領選でトランプ氏もこの言葉を使用し、SNSで爆発的に広がった。ゼルナーはトランプ氏のおかげで自身の生み出した「リマイグレーション」というコンセプトが国際的な地位を確立したと豪語していた。

 当時、この謀議にヴァイデル氏の側近だった人物などが関わっていたことからAfDは猛批判を受け、100万人規模の抗議活動が起きた。ヴァイデル氏は即座にこの側近を解任した。「ドイツ国籍を有する人たちはもちろん我々国民の一員だ」と火消しに奔走し、謀議とは関わりのないことを強調した。この上、当時公式にはAfDはリマイグレーションという概念を拒絶するとも表明していた。

 ところが、マスク氏との対談で同氏から「ドイツ国民はAfDに投票すべき」という明確な援護射撃を得た直後の今月11日、ヴァイデル氏は地方の集会でリマイグレーションを公然と肯定した。移民の大規模な送還を提唱し、堂々と「(そう呼ぶならば)リマイグレーションと呼ぶが良い」と開き直ったのである。

 その上、ドイツ南西部ではAfD支部によって移民家庭の郵便受けに航空券を模倣したビラがばらまかれる騒動も起きた。この片道航空券の「乗客名」は「不法移民」と明記され、出発日は総選挙の行われる2月23日。出発地はドイツで、行き先は乗客の「安全な出身国」とされている。

 この地域のAfD広報は、これが同党の地方選挙キャンペーンの一環であることを認めた。地元警察は14日、このビラについてヘイト扇動の疑いで捜査を開始したと発表した。

 この地域の左翼党の市議会議員はこのビラ騒ぎを受け「AfDは本性を現した」と危機感を示した。先の移民追放謀議の際にはたとえ建前上であれ、AfDは極右や白人至上主義思想と距離を保とうという謙虚な姿勢を見せていたにもかかわらず、総選挙を前に調子に乗り、化けの皮が剥がれてきたと言うところだろうか。

 総選挙を前に発表した党のマニフェストには「AfDはイスラム教を拒絶する」と堂々と記している。ナチスドイツではユダヤ教徒が迫害されたが、AfDでのターゲットはイスラム教徒である模様だ。

 そしてこの開き直りは、トランプ政権に近しいマスク氏からの強力な援護射撃あってのものと言っても過言ではないだろう。