お上から与えられた自治は本当の自治か?
さらに、「上から与えられた自治が果たして機能するのか」という本質的な問いもある。
自治とは、自分たちのことを自分たちで決め、自分たちで処理すること。であるとすれば、「ボトムアップでにじみ出るべきものではないか」とNCLの理事として林を支える白水雄治は指摘する。Local Coopという概念には賛同しているが、こと自治という部分については疑問を感じているという。
この部分については、奈良市も政策シンクタンク「構想日本」が手がける「自分ごと化会議」を導入するなど、トップダウンとボトムアップを融合させるべく動いている。実際、月ヶ瀬でも共助と地域コミュニティを活用したヒト・モノの移動についてや、共助や地域コミュニティの強化などについて、自分ごと化会議が開催された。
「自分ごと化会議」とは、政治や行政の問題を自分自身の話にするために、無作為抽出した住民に対話してもらう場である。
もっとも、LC大和高原の本間や地域おこし協力隊のメンバーが地域を巻き込むべく動いているが、白水が指摘するように、与えられた場に集まり議論することが本質的に自治と言えるのかと問われれば、必ずしもそうではない。Local Coopを実際に動かしているのは外部の人間であり、現状では住民に自治を促すための器に過ぎない。
一方で、「地域のことを担当するのは行政」という構図が長らく続いたため、こうした人為的な場がなければ、住民自治につながらないというのも事実である。
こうして考えると、住民自治や政治・行政の自分ごと化に時間がかかるのはやむを得ない。その意味では、まさに社会実験である。
ただ、Local Coopのような取り組みを進めていかなければ、コミュニティは確実に消滅していく。人口が減る中、どのように地域の暮らしを維持していくのか。そんな大きな問題をLocal Coopが提起しているのは間違いない。
さて、次回以降はもう一つの事例として、三重県尾鷲市に誕生したLocal Coop 尾鷲の取り組みを見ていく。月ヶ瀬を中心としたLC大和高原は行政サービスの代替と住民自治という側面が強く出ているLocal Coopだが、LC尾鷲のほうは森林再生と生物多様性の回復という全く別のプロジェクトに仕上がっている。
ただ、LC尾鷲の話をする前に、Local Coopの導入に踏み切った奈良市長・仲川げんのインタビューを公開する。Local Coopの狙いから自治体の役割、民主主義の未来までざっくばらんに語っており、なかなかに刺激的だと思う。(続く)
篠原 匡(しのはら・ただし)
編集者、ジャーナリスト、蛙企画代表取締役
1999年慶応大学商学部卒業、日経BPに入社。日経ビジネス記者や日経ビジネスオンライン記者、日経ビジネスクロスメディア編集長、日経ビジネスニューヨーク支局長、日経ビジネス副編集長を経て、2020年4月に独立。
著書に、『人生は選べる ハッシャダイソーシャルの1500日』(朝日新聞出版)、『神山 地域再生の教科書』(ダイヤモンド社)、『誰も断らない こちら神奈川県座間市生活援護課』(朝日新聞出版)など。『誰も断らない 神奈川県座間市生活援護課』で生協総研賞、『神山 地域再生の教科書』で不動産協会賞を受賞。テレ東ビズの配信企画「ニッポン辺境ビジネス図鑑」でナビゲーターも務めた。