会社の対策を知らずに不信感を募らす

【理由③ 職場相談の高いハードル】

 3つ目の理由は、メンタルヘルス不調になった際、職場に相談できない若手が多く、症状悪化につながりやすいことだ。

 そもそも、このようなメンタルヘルス不調を職場に相談する抵抗感は、メンタルヘルス対策が進んだ現在でも全年代で高い。がんや糖尿病などの身体的な病気は必要があればほとんどの人が職場に相談する*4のに対し、メンタルヘルス不調を職場に相談するのは2人に1人のみだ。

 若手はメンタルヘルス対策が進んだ時代に育っているため、上の年代よりも相談しやすいと考えられがちだ。しかし、実際にはメンタルヘルス不調に陥った20代の実に7割が、職場への相談に抵抗を感じていた。これは他の年代よりも高い。

 なぜ若手のほうが職場に相談するハードルが高いのか。それは、「相談すると自分の評価や評判が下がるのではないか」という懸念が強いからだ。

 若手特有の将来不安に転職しやすさが相まって、職場に相談して自身の評価・評判を下げるくらいなら、転職したほうがよいと考えやすい。

 また、意外なことに若手ほど「職場に相談したらサポートが得られる」というイメージも持てていない。職場のメンタルヘルス不調者対応はセンシティブなため内密に行われる傾向があり、就業経験の浅い若手では特に知る機会が少ないためだ。

※5件法で回答を求め、肯定回答率を集計
出所:パーソル総合研究所「若手従業員のメンタルヘルス不調についての定量調査」より筆者作成
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 さらにこの背景には、社会全体のメンタルヘルス不調への根強い偏見や、会社の対応への不信感があるだろう。しかし、メンタルヘルス不調者への退職の促しや昇進昇格候補からの除外といった会社の対応は、法整備によりすでに是正されつつある。

 このような変化を若手社員が「知らないこと」が障壁となっている。従業員が体調不良を相談できない職場は健全といえるだろうか。従業員への啓発を通じて、古くなった相談ハードルはいちはやく取り除かれる必要がある。

 ビジネス環境や生活環境が急速に変化する昨今、若手をとりまくストレス要因は様変わりしてきている。大切なのは、新たなストレス要因を理解し、各自がセルフケアを心がけるとともに、必要に応じて相談できる環境を整えることだ。

*1:労務行政研究所(2022)「メンタルヘルス対策の最新実態」(労政時報第4034号)
*2:金間 大介(2022)『先生、どうか皆の前でほめないで下さい ーいい子症候群の若者たち」(東洋経済新報社)、豊田 義博(2017)『なぜ若手社員は「指示待ち」を選ぶのか?』(PHPビジネス新書)、舟津 昌平(2024)『Z世代化する社会-お客様になっていく若者たち』(東洋経済新報社)など
*3:パーソル総合研究所(2021)「はたらく人の幸せに関する調査【続報版】(テレワーカー分析編)」
*4:独立行政法人労働政策研究・研修機構(2024)「治療と仕事の両立に関する実態調査(患者WEB調査)」

 

金本 麻里(かねもと・まり) パーソル総合研究所 研究員
総合コンサルティングファームに勤務後、人・組織に対する興味・関心から、人事サービス提供会社に転職。適性検査やストレスチェックの開発・分析報告業務に従事。 調査・研究活動を通じて、人・組織に関する社会課題解決の一翼を担いたいと考え、2020年1月より現職。