で、ダークエネルギーとは?

 ダークエネルギーが宇宙論研究者を悩ますようになったのは20世紀の終わりごろです。

 宇宙膨張のようすを調べるには、多くの天体を観測して、その距離と逃げ去る速度を測ります。1990年代に、「Ia(いちエー)型超新星」という爆発現象をたくさんたくさん観測して、その距離と逃げ去る速度を測ったところ、宇宙膨張がどうやら加速しているようだということが明らかとなりました。時間が経つにつれて、膨張速度がだんだん速くなっているというのです。この大発見は2011年のノーベル物理学賞を受賞しました。

 宇宙膨張が加速しているということは、フリードマン方程式のさまざまな解のうち、加速膨張するようなものが正解だということです。そういう解を得るためには、方程式を少々変更しないといけません。方程式に「宇宙項」あるいは「Λ(ラムダ)」と呼ばれる定数を加えてやるのです。そしてその値を調整すると、徐々に膨張が加速していく宇宙モデルが出てくるのです。

 方程式に加えられた宇宙項Λの正体は何でしょうか。宇宙に存在するなにものが宇宙項Λに相当するのでしょうか。

 通常の物質は宇宙項にはなりえません。物質は宇宙をうっすらと満たしていますが、宇宙の体積が増えると反比例して密度が減ります。体積が増えるとその中の物質が薄まるのは、ごく当たり前のことですね。フリードマン方程式の中では、物質は体積に反比例する項として表されます。

 けれども宇宙項は、宇宙の体積が増えても、密度が通常物質のようには減らず、一定です。不正確な表現ですが、容器が膨らむと、どこからともなく湧いてきて容器を満たし、薄まることがないのです。宇宙項で表されるなにものかは、こういう摩訶不思議な性質を持っているのです。なんじゃこりゃ。宇宙論研究者は全員頭を抱えました。

 そんな代物は、実験装置の中でも、望遠鏡でも、観察されたことがありません。とりあえず名前がないと困るので「見えないエネルギー」という意味で「ダークエナジー」と呼び名がつきました。(日本語話者だけがこれを「ダークエネルギー」と呼びました。)

 どうやらダークエネルギーが宇宙を満たしているらしいと判明してから、その正体はいったい何かという議論がずっと続いていますが、結論は出ていません。ある種の素粒子理論には空間を満たすエネルギーが現れますが、正しいのはその理論であり、同様なエネルギーの存在を主張する別の理論ではないとはいいきれません。またダークエネルギーの正体を判定できる実験結果や観測事実も、いまのところありません。

 ダークエネルギーとは何か、名前以外わからないまま約30年が経過し、宇宙の観測できる範囲は100光年ほど広がりました。