なんだかうまくいったのか?

 現在広く受け入れられている「標準宇宙論」は、この宇宙が一様で、私たちは(宇宙の中心のような)特別なところにいる観測者ではないと仮定しています。宇宙論の方程式を簡単にするための仮定です。

 タイムスケープ宇宙論は、宇宙に存在する物質にムラがあるとすることで、宇宙は一様という仮定を放棄するものです。私たちは物質の濃いところ(重力源の近く)という特別なところにいる観測者ということになります。

 タイムスケープ宇宙論という発明を、地球が太陽を周回しているのだと見抜いたコペルニクスになぞらえて、コペルニクス的転換と呼ぶ人もいます。(しかし筆者の私見では、コペルニクスはここが宇宙の特別なところではないと述べたのに対し、タイムスケープ宇宙論はここが宇宙の特別なところだと主張するので、むしろ反コペルニクス的ではないかという気がします。)

 さて、この新しい宇宙論は正しいのでしょうか。30年にわたって研究者を悩まし、ノーベル賞も出たダークエネルギーは、結局壮大な虚構だったのでしょうか。理論屋も実験屋も素粒子物理学者も夢から醒めて、ダークエネルギーのないまっとうな学問に立ち返るのでしょうか。

 それともタイムスケープモデルもまた、ついにダークエネルギー問題を解決したと主張した数多くの試みと同じく、失敗に終わるのでしょうか。

 タイムスケープ宇宙論と標準宇宙論のどちらが正しいのかは、どちらが観測データをよりうまく説明するかによって決まります。ただしタイムスケープ宇宙論の方は、物質にどれほどムラがあるのか、天の川銀河はどのあたりに位置するのかといった、自由に調整できるパラメータが多いので、その点を考慮して比べないといけません。セイファート氏らによると、その点を考慮しても、若干タイムスケープ宇宙論の方がIa型超新星のデータに合っているとのことです。

 宇宙の加速膨張はIa型超新星のみによって結論されたわけではなく、他の観測データからも支持されると考えられています。タイムスケープ宇宙論を証明するには、他の観測データをも説明する必要があるでしょう。

 まだまだ越えるべきハードルは多いですが、タイムスケープ宇宙論の今後の展開に期待です。

※1:Antonia Seifert, et al., “Supernovae evidence for foundational change to cosmological models,” MNRAS Lett., Vol. 537, Issue 1, L55.