BtoB企業は無頓着な「売った後」のリスク

4.製品・サービスの「販売先」での人権リスクにも留意せよ

 近年、大企業を中心として、自社内での人権リスクに対応するだけでなく、原材料などを調達しているサプライヤーや業務委託先、言い換えればサプライチェーンの「川上」にあたる取引先に対しても人権尊重を求める動きが活発化している。

 取引先企業に対し、人権の尊重を含めたサプライヤーへの要求事項をまとめ、「調達ガイドライン」などの形でルール化している企業も少なくない。

 一方、これまであまり注目されてこなかったのが「売った後」のリスクだ。

 BtoC企業の場合は消費者からの意見や訴訟に直面することもあり、自社製品・サービスが販売された後に、人々の安全や健康などに悪影響を及ぼしていないかを意識する局面が多少なりとも存在するが、BtoB企業の場合はこうしたケースが少なく、「川下」の人権リスクに関する意識は特に希薄であったと言わざるを得ない。

 しかし、いまや企業や政府を顧客とするビジネスであっても、販売先で起きることについて「売った後のことは知りません」では済まされない時代になっている。

 例えば、2022年2月に始まったロシアによるウクライナへの軍事侵攻では、ロシア軍のドローンに複数の日本企業のカメラやエンジンが活用されている可能性があると報じられた。

自社商品が回り回って紛争や弾圧に使われていたらどうする?(JBpress)

 2024年に採択されたEU(欧州連合)のCSDDD(企業に対し、事業活動による人権や環境への悪影響を予防・是正することを義務付ける「企業持続可能性デュー・ディリジェンス指令」)においても、「川上」だけでなく「川下」も含む「バリューチェーン全体」を通じた対応が必要であることが改めて確認された。

 企業は自社の製品・サービスが「販売先を通じて間接的に人権侵害に加担している」可能性も視野に入れた上で、人権対応を進めていく必要があるだろう。