新会社の目的「放送ネットワークの効率化」が意味するもの

 12月25日、ある会社が設立されました。

 NHKが、民放と中継局などの放送設備を共同利用するために立ち上げた「日本ブロードキャストネットワーク」です。

 新会社の目的は「放送ネットワークの効率化」。つまり、固定費用を削減することです。今後、民放キー局も出資し、本格的な体制を整えて、2026年度に稼働を予定しています。

 背景には、地方の過疎化・高齢化を反映したローカル局の苦境があります。原則として県単位に存在するローカル局は、キー局を軸にしたネットワークを形成し、報道や営業の拠点として重要な意味を持っています。

 だから、経営体力や制作能力に乏しい、言わば「お荷物」のようなローカル局だとしても、切り捨てるわけにはいきません。そこで働く若い社員たちが見切りをつけて次々に退職し、先が見えなくても、です。

 キー局は「ネットワーク費」などの名目でローカル局に分配金を与え、支援してきました。それでも、ローカル局の多くは赤字体質から脱却できず、キー局にとって大変悩ましい課題になっています。

 そんな状況で、民放にとって「渡りに船」とばかりに、NHKを主体にして、放送設備を共同利用する話が着々と進んできたのです。共同利用を広げれば、たしかに「放送ネットワークの効率化」にはつながります。

 しかし、それは事実上、体力の弱い民放ローカル局の救済にNHKの受信料を投入するということです。公共放送維持のために国民が負担する「特殊な負担金」という位置づけのNHK受信料を、民間企業の支援に使うことは妥当なのでしょうか? 一方で、先述したようにキー局では高額とも言えるボーナスを支給しているのです。

 NHKを含め業界を挙げてローカル局を救おうとする裏には、放送行政の裁量権を握る総務省の思惑も隠されています。放送体制の維持は省益そのものであり、放送業界への天下りという恩恵にもあずかる利権構造があります。そこで2024年5月の放送法改正で、NHKにおける民放との連携・協力について、これまでの「努力義務」から「義務」に変えて、法的根拠を整えてきました。

 ローカル局の救済や延命措置は、放送の公共性の役割からしても意義があります。それ自体は否定しません。しかし、NHKの受信料に頼る仕組みであることには疑問を抱きます。