今年の紅白歌合戦は、旧ジャニーズ事務所のタレントが一人も出場しないことに注目が集まり、例年以上に多くのメディアが大きく扱っている。昭和の終焉とともに下降傾向に入ったとはいえ、世帯視聴率でみると紅白は現在でも最強の番組だ。しかし、かつて北島三郎さんや大竹しのぶさんが鋭い指摘をしたように、時代に合わなくなっているのも確か。紅白歌合戦が変われるかどうかは、NHK、ひいてはエンターテインメント業界の姿勢を問う試金石になるのではないか。
(岡部 隆明:就職コンサルタント、元テレビ朝日人事部長)
空々しく聞こえる「歌の力」
故ジャニー喜多川氏の性加害問題を受けて、今年の紅白歌合戦には旧ジャニーズ事務所(現SMILE-UP.)に所属するタレントは出場しない見込みです。ジャニーズ勢の不在は1979年以来44年ぶりだそうです。
出場者発表の2カ月くらい前から、NHKの稲葉延雄会長が「被害者補償や再発防止の取り組みが十分と判断されるまで、所属タレントと新規の契約をしない」と表明していました。毎年5、6組が出場していたのをゼロにして、筋を通したNHKの判断については、概ね好意的に受け止められていたのではないでしょうか。
もっとも、11月15日にNHKの山名啓雄メディア総局長が、放送当日まで追加の出場者がある可能性について言及しています。最近の紅白は話題作りに躍起で、「サプライズ」出場を仕掛けることが多いので予断を許しません。
まだ正式発表がなく、現段階(12月14日時点)では真偽は定かではありませんが、旧ジャニーズ事務所とのエージェント契約を一時解消したグループが出場するという情報があります。これについて「一時的な契約解消」を問題視する意見が出るなど、SNS上では論議を呼んでいます。
歌の力というより事務所の力だよね
これは、紅白歌合戦の出場者の選考基準が不透明で、特定の芸能事務所に偏っていることを皮肉った言葉です。誰が言ったのかはわかりませんが、何年か前に、どこかの記事で読んだ時、うまいことを言うなあと思いました。
近年の紅白歌合戦では、司会者が「歌の力」という言葉を頻繁に使います。「歌の力は希望や勇気を与えてくれる」とか「歌の力でつながる」などです。歌の力を前向きに捉えるのはよいのですが、何度も言われると空々しく聞こえてくるものです。そんな時に旧ジャニーズ事務所を想起させる「事務所の力だよね」という言葉が妙に心に響いて納得しました。
テレビ史上に輝く世帯視聴率81.4%
紅白歌合戦は、第13回の1962年からビデオリサーチ社による視聴率データが表示されるようになりました。そして、翌1963年に81.4%というテレビ番組史上、最高を記録しています。その後も1980年代半ばまで、ほぼ70~80%で推移しており、紅白は「お化け番組」と呼ばれるようになりました。