和を大事にする日本人はバランス感覚を重視する。それはビジネスパーソンにとって、利害調整など円滑な業務遂行のためにも必須項目である。しかし、変革やイノベーションが急務の時代において、バランス感覚が阻害要因になっている。岸田内閣の“辞任ドミノ”の根底にある「派閥順送り人事」はその典型だが、バランス感覚の呪縛は日本の隅々に絡みついている。
(岡部 隆明:就職コンサルタント、元テレビ朝日人事部長)
メッキが剥がれた岸田首相
岸田内閣の支持率が低迷しています。報道各社が実施した11月の世論調査では、軒並み20%台という支持率となり、2021年10月の政権発足以来最低水準となりました。毎日新聞の調査では21%の支持に対し、不支持が74%という結果でした。
岸田首相は10月の所信表明で「経済、経済、経済」と連呼し、「経済に重点を置く」と訴えました。しかし、国民の期待と政策との乖離が目立ち、それが支持率の低下を招いているようです。「経済」ではなく「体裁」ばかり気にしているのではないかと、首相の言葉には虚無感さえ漂います。
岸田氏は自身の強みとして「聞く力」を挙げていました。多種多様な意見を聞き入れて決断するタイプであると自己PRしたのは、バランス感覚を持った人物であると言いたかったのでしょう。日本人の中には、聖徳太子の「和を以て貴しとなす」の精神が息づいており、独断専行型より調整型のリーダーに安心感を覚える傾向があります。岸田氏がバランス感覚を大事にする「いい人」をアピールするのは巧妙な戦術だと思っていました。
それが今や、「聞く力」「バランス感覚」「いい人」アピールのメッキは剥がれています。支持率が示す通り、発足当初の期待感は大きく低下しました。調整型とされる岸田氏の存在は、日本の閉塞感を体現していると感じています。
企業も然りです。新陳代謝や創造的破壊が日本企業の復活に必要だと言われながら、過去の成功体験の思い出に浸るばかりで、なかなか成長軌道に戻れません。
新陳代謝や創造的破壊を平易な言葉で言えば「変革」「イノベーション」です。しかし、残念ながら、実現させることができず、日本経済は長期低迷から脱していません。
では、なぜ官民挙げて挑戦しているはずの「変革」「イノベーション」が実効性を持たず画餅に終わってきたのでしょうか?