「不都合な真実」にもう耐えられない

 移民政策を180度転換したのはスウエーデンだ。移民の出国を促すため、来年から自主帰国を決めた移民に対し、1人当たり最大35万クローナ(約490万円)を給付する。移民の増加による治安の悪化に加え、経済面でのデメリットも明らかになっていることが背景にある。

 米ハーバード大学のジョージ・ボーハス教授は「移民の受け入れは格差の拡大を招く」と主張している。2015年の米国のデータに基づく推計によれば、移民に帰属する分を除くと経済全体への貢献分はわずか0.3%に過ぎない。

不法移民の増加を示すグラフを前に演説するトランプ氏(写真:Mark Hertzberg/ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ)

 移民の影響で労働者の取り分は3%減少する一方、企業の取り分は3%増加している。労働者の間では低所得者の打撃が大きい反面、高所得者はメリットを享受する。

 だが、厳密な実証分析が出る前からこの「不都合な真実」はわかっていたと思う。

 米国でも西欧でも、かつてリベラル政党は支持基盤だった労働者の利益を守るため、移民受け入れに後ろ向きだった。だが、グローバル化が進むにつれて、リベラル政党は労働者の利益を守るという本分を忘れ始め、今や大企業やエリート層の利益を代弁する存在となってしまった感がある。

 ロシアのウクライナ侵攻後のインフレが先進国の低賃金労働者に与えるダメージも計り知れない。ダブル・パンチに見舞われた彼らの怒りが、移民政策の揺り戻しを引き起こす可能性が高いのではないだろうか。

 筆者は「移民の流れを抑制する潜在的なリスクもあるのではないか」と危惧している。

 念頭にあるのは、新たなパンデミックの襲来だ。