「信用貨幣論」の正しい理解
中野:シュンペーターは、1912年に発表した『経済発展の理論』の1章をまるまる貨幣理論に当てるほど、貨幣について深い興味と知見を有していました。
彼が考える貨幣理論は、ケインズ同様、「信用貨幣論」でした。「信用貨幣論」とは何か。多くの人が勘違いしていることですが、銀行は企業や個人から預金を集め、それを元手に融資しているわけではありません。
銀行は「企業Aに1000万円貸します」と言って、企業Aの口座に「1000万円」と記帳しているにすぎません。銀行は何もないところから1000万円を生み出しているのです。つまり、銀行は預金を元手に貸し出しを行なっているのではなく、反対に銀行が貸し出しをすることで預金という貨幣が創造されるのです。
これが信用貨幣論の基本的な考え方です。シュンペーターは、この信用貨幣論を大変重要視していました。なぜならば、資本主義より前の経済発展のない世界ならばいざ知らず、経済発展する世界では、設備投資、研究開発投資のために巨額の貨幣が必要だからです。
その貨幣をどこから調達すべきか。
経済がすべて金を採掘することで得られる金貨によって回っていたとすると、金を採掘しない限り貨幣は増えません。ところが、近代に入ると銀行制度ができました。これにより、研究開発投資や設備投資のための貨幣を「何もないところ」から得られるようになりました。
銀行制度のおかげで、イノベーションを起こせるようになったと言っても過言ではありません。イノベーションと銀行制度、信用貨幣論は密接不可分な関係です。
ところが、この「貸し出しによって何もないところから貨幣が生まれる」という信用貨幣論は、現在でもあまり理解されていません。
なお、政府の場合は民間銀行からお金を借りることができません。では、どこから借りるのかと言うと、各国の中央銀行、日本でいうと日本銀行です。