現代貨幣理論(MMT)を理解しない主流派経済学者
中野:日本政府が「10兆円必要になりました」と言うと、日本銀行は何もないところから10兆円を作り出して政府に貸し出します。その10兆円を政府が支出することで、貨幣が民間に供給されます。政府が中央銀行から債務を負って財政支出をすることこそが、貨幣供給なのです。
したがって「財源がない」「財政が破綻する」ということはあり得ません。何もないところから政府がお金を借りて貨幣供給をしているという議論は日本でもこの5年くらい注目されています。これがいわゆる現代貨幣理論(Modern Monetary Theory; MMT)です。
現代貨幣理論は、多くの主流派の経済学者がデタラメだと否定しています。けれども、この現代貨幣理論は今説明した通り、信用貨幣論をベースにしているので、誤りではありません。
──信用貨幣論や現代貨幣理論は、海外でも受け入れられていないのでしょうか。
中野:基本的にそうです。主流派の経済学者は信用貨幣論を理解していません。
日本の恐ろしいところは、シュンペーターの競争制限的な産業組織理論も理解せずに市場原理主義を採り入れ、信用貨幣論についてはトンデモ理論だといって否定している。二重に間違えているのです。これでは、イノベーションが起きるわけがありません。
──信用貨幣論や現代貨幣理論を許容していないにもかかわらず、なぜ米国では政府が宇宙軍事産業に積極的に投資できるのでしょうか。
中野:米国の場合は、政府の信用貨幣論に対する理解は不十分ではありましたが、冷戦でソ連に負けないよう巨額の研究開発投資をし続けました。それが結果として、産業政策になったということだと思います。
実は、中央銀行で実務を担っている人たちは、日本もそうですが、信用貨幣論を理解しています。
英国のイングランド銀行のホームページにいけば、信用貨幣論の解説動画が見られます。中央銀行で実務を担う人たちにとって、信用貨幣論は常識なのです。
──シュンペーター派の経済学が、現在の主流派経済学に取って代わる可能性はありますか。