「主流派経済学は何かおかしいのではないか」
中野:そればかりは、わかりません。正しいことを主張していくことで、次第に変化していく可能性はあるかもしれません。
2008年のリーマンショックが世界に甚大な打撃を与えたのは事実です。主流派の経済学者のほとんどがこの金融危機を予測できませんでした。けれども、リーマンショックがきっかけで「今の主流派経済学は何かおかしいのではないか」という議論が増えてきたと感じています。
学問の世界では、主流派がいくら権威を持っていて多くの人が信じていたとしても、世の中の現象を説明できないことが増えてくれば「この理論は違うのかもしれない」と思う人が増えていくものです。かつての天動説がまさにそれです。
ケインズが注目されたのは世界恐慌がきっかけでした。今までの理論では世界恐慌を説明できないということで、ケインズの理論が認められるようになったのです。
今、世界中で主流派経済学では説明できないおかしな現象がたくさん起こっています。おかしなことばかり起こっていること自体は不幸なことです。けれども、学問はこういった危機のときほど新しい理論が古い理論に取って代わっていき、発展していきます。
危機が起きていることは不幸ではありますが、学問の発展という観点では、現在は大変良い環境にあるのではないかと思います。ただ、危機がひどすぎると、正しい理論を理解したときにはもう手遅れになっているという可能性も十分にあり得ます。
予断を許さない状態だということは、肝に銘じておいたほうがいいかもしれません。
中野剛志(なかの・たけし)
評論家。1971年神奈川県出身。専門は政治経済思想。東京大学教養学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学。同大学院にて2005年に博士号を取得。2003年に論文 ‘Theorising Economic Nationalism’ (Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。
関 瑶子(せき・ようこ)
早稲田大学大学院創造理工学研究科修士課程修了。素材メーカーの研究開発部門・営業企画部門、市場調査会社、外資系コンサルティング会社を経て独立。YouTubeチャンネル「著者が語る」の運営に参画中。