また、河口堰建設後に、回遊性魚類や海水魚の減少により魚類種の多様性が減少したデータも公表している。

 Kウォーターは、日本で言えば、長良川河口堰の事業者である独立行政法人水資源機構と役割は似ている。しかし、水資源機構は、長良川河口堰による環境影響の悪化は認められないという姿勢を取り続けているが、Kウォーターは、プレゼン資料の最後に「Kウォーター釜山圏支社は健康な生態系と幸せな暮らしが共存するナクトゥンガン河口のために努力します」という言葉で締めている。両者の「水」と向き合う姿勢は異なっている。

 科学的事実を直視し、市民の声に耳を傾け、政治が変わって、行政の仕事を変える。民主主義の形が、そこには見えた。

洛東江河口堰脇のKウォーターで河口堰運用技術等について説明を受ける視察一行(2024年8月29日筆者撮影)
拡大画像表示

生態系回復のために何ができるか

 視察行程も終わりに近づいて、長良川河口堰の開門について、先進事例から言えることはあるかという問いに、カン代表は、次のように語った。

「開門は簡単な話ではないが、1つ目は、市民世論を作ること。2つ目は、今回、来てくれた『長良川河口堰最適運用検討委員会』が、関連団体と連帯することが重要です。3つ目は、知事が河口堰開門宣言をすることができるよう政治的な状況を作る必要があります。4つ目は、記者たちに報道してもらうこと。5つ目は、与野党の国会議員と多く出会って、開門を求めていくこと」

 それはまさにカン代表ら協議会が、10年余をかけてやってきたことだ。

 実は、今回、同行取材を行ったのは岐阜新聞の記者とフリーランスの私だけだった。岐阜新聞では「開いた河口堰 韓国・ナクトゥンガンからの報告(上)」をはじめ、全3回の連載を行った。報道の役割も決して小さくはないはずだ。

 この視察を受けて「長良川河口堰最適運用検討委員会」、そして愛知県は何ができるのか。次回の「川から考える日本」で書いていきたい。