金利水準は同じなのに通貨政策は対照的

 SNBは今回の決定に合わせ、前回9月26日会合の声明文まで見られていた「今後数四半期にわたってさらなる引き下げが必要になる」といった利下げ予告にまつわる文言を削除しており、声明文の上ではいったんの打ち止め感が示唆する状況にある。

 しかし、今年10月1日に就任したばかりのシュレーゲルSNB総裁は、一段の利下げ余地を否定せず、必要ならばマイナス金利復活も躊躇しないことを示唆している。

 その上で、為替市場に(スイスフラン売り)介入する用意があるとも述べており、通貨・金融政策を総動員して現在のディスインフレ状態を食い止めに行くSNBの決意を口にしている。

 SNBの掲げるインフレ率の目標レンジが「0~2%」であるのに対し、直近11月分は前年比+0.7%とやや下方リスクが強まる状況にある。今回公表された2024~26年のインフレ率の見通しを見ても、政策金利を現行の0.5%と仮定した場合、「+1.1%→+0.3%→+0.8%」と2025年にかけて一段と沈む見通しになっている。

 にもかかわらず、利下げ予告文言を削除したのは「将来分も含めて今回引き下げた」という意図であり、次回会合は現状維持だとしても、インフレ動向次第で追加利下げに踏み込む意思は何ら変わっていないと解釈すべきである。

 冒頭述べたように、今やSNBと日銀の政策金利はほとんど変わらない。むしろ、現在入手可能な情報に基づく限り、2025年中に逆転する展開も視野に入る。マイナス金利同士で絶対値を競っていた時代を除けば、「日本の政策金利が先進国中で最低ではない」という状況は極めて稀有である。

 しかし、政策金利水準が近似していても、金融政策の方向性および自国通貨に対する悩みの方向性は両行で正反対だ。為替市場参加者ならばよく知る事実だが、スイスフランは今回の円安局面が始まって以降、ほとんどすべての時間帯で先進国最強通貨の地位を維持していた。

 同じ局面においてこれほどドル高がクローズアップされる中でも、スイスフランが負けていた時間帯はわずかである。数字を見てみよう。