エイブラハムが実践した神と交渉する術とは

 エイブラハムと別れたロトが住み着いたソドムとゴモラの街は、腐敗と堕落を重ね、神が見かねてこれを焼却処分にすると決められた。そこで、エイブラハムが神と交渉する。この交渉の仕方こそ、ユダヤ式交渉術として、我々ユダヤ人がこの事件から学んでいることなのである。

 エイブラハムは神に向かってこう言った。

「神様、ソドムとゴモラがいかに腐敗しているとはいえ、まさか全員が腐敗した人間ではありますまい。もし、何万人もいる住人の中に50人の腐敗していない潔白な男女がいた場合には、それでも2つの街の民をすべて焼却されますか?」

 神は「うーん、それならば、まさか50人を焼却する訳にはいかないから、街全体を助けよう」と答えた。

 するとエイブラハムはすかさず畳みかけた。

「神様、その50人がもし5人少なかったとしたらどうしますか。45人の人間が無罪の場合でも、焼却されますか?」

 そうすると神は「いや、45人も無実の人間がいるのなら、街全体は焼却しない」と答える。

 すかさずエイブラハムは、神に向かって「ならば、45人が30人ならばどうされます?」と、どんどん人数を下げていく。このようにしてエイブラハムは神と交渉する術を身に付けたのである。

 最終的にエイブラハムは「10人の善人がいるならソドムとゴモラの街を全部焼却処分にされるのか?」と神に問い詰めて「そんなことはしない」と神からの約束を取り付けた。これこそまさにユダヤ式交渉術である。我々はこの絵画からユダヤ式交渉術を学んでいるのである。