闇バイトの被害が広がっている(写真:TimmyTimTim/Shutterstock.com)

2024年は「闇バイト」による強盗事件が多発した。トクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)という犯罪組織が求人サイトやSNSで「高額バイト」として実行役を募集し、詐欺や強盗を働かせる事件だ。指示役は「シグナル」や「テレグラム」といった秘匿性の高いSNSを駆使し、身元を巧みに隠していることから捜査は難航している。サイバー犯罪が専門の東京都立大・星周一郎教授は「闇バイト根絶のためには、通信傍受法の改正と『おとり捜査』の実効性を高めることが重要」だと指摘する。

(湯浅大輝:フリージャーナリスト)

インターネットで出会う人間を信頼してしまう若者

──2024年は首都圏を中心に、闇バイトに応じた若者による強盗が多発しました。トクリュウが「テレグラム」や「シグナル」といった秘匿性の高いアプリを用いて若者に強盗や特殊詐欺を「実行」させるのが特徴ですが、「指示役」に対する捜査は難航しています。なぜでしょうか。

星周一郎教授(以下、敬称略):まずは、「闇バイト」と呼ばれているトクリュウによる犯罪のスキームをおさらいしましょう。

 トクリュウは求人サイトやSNSを通して「高額バイト」「即日即金」といった求人を提示します。応募者に顔写真付きの身分証明書や家族の個人情報の送信を強要し、逃げられなくさせます。その上で、特殊詐欺や強盗を応募者に実行させる、というものです。実行犯は「逃げられなかった」「一度だけだと思って脅された」と供述しています。

星 周一郎(ほし・しゅういちろう) 東京都立大学法学部教授 1969年愛知県生まれ。東京都立大学法学部卒業、博士(法学・東京都立大学)。専門は刑事法。近年は情報法や医事法にも研究対象を拡げている。著書として『放火罪の理論』(東京大学出版会・2004年)、『防犯カメラと刑事手続』(弘文堂・2012年)、『現代社会と実質的刑事法論』(成文堂・2023年)、『アメリカ刑法』(訳・レクシスネクシス・ジャパン・2008年)など。 

 闇バイトに引っかかるような若者は「1日に大金を稼ぐことなどできない」「他人に個人情報を送ってはいけない」という基本的なリテラシーが不十分なことも多く、トクリュウは若者の無知を利用しているのです。ネットを通して他人と出会い、信頼関係を築くことに抵抗がない若者は、それだけ闇バイトとの接点も多いと言えます。

 こうしたスキームが明らかになっている以上、闇バイト根絶には実行役を逮捕するだけでは意味がなく、首謀者の摘発が必須となります。なぜ摘発できないかというと、通信傍受と捜査方法の限界という大きな問題があります。

──既存の法律や捜査方法では摘発は難しいということですか?