ジョブ型で会社と社員は「コスパ重視」の関係に

 日本企業の人材マネジメントは、適所適材の配置や職務・職責に応じた処遇という面で課題を抱えている。ざっくり言うと、年功色が濃い。企業がジョブ型を注目する所以だ。

 とはいえ、各ポジションの職務記述書をくまなく整備して運用するには、あまりにも手間がかかりすぎるので、ガチガチのジョブ型が主流になる可能性は低いと思われる。それでも、多くの企業は自社の戦略や文化に合わせたかたちで、「仕事」基準を取り入れる動きを強めるだろう。

 ジョブ型的な制度を取り入れることで、人材マネジメントは基本的に「現時点の実力重視」の方向へと移行していく。

「現時点の実力重視」は当然すぎる話のようでいて、これまでの実際の処遇には、昇格に在級年数基準があったり、給与も昇給が積み上がって決まっていたりと、年功的な要素も多い。年功は「累積貢献度」、つまり、その社員が長年にわたって積み上げてきた貢献の累計と言い換えることができる。

 他方、ジョブ型では登用や処遇の基準に「累積貢献度」はない。その時々のジョブに必要な人材をその都度評価・処遇する、いわば「リアルタイム」の仕組みであり、企業と社員の関係を大きく変えることになる 。

 リアルタイム目線での評価・処遇は若手人材の機会を拡大する一方で、同じ仕事を続ける限り処遇は上がらない。そのため、「努力していれば、いずれ会社が応えてくれる」といった期待は薄れる。企業側も「社員は将来を楽しみにして、会社のために頑張ってくれる」という期待は持ちにくい。

 また、若手人材もいつまでも若手というわけではない。これからは、正社員であっても数年単位の経済的交換が強調される関係へと変化する可能性が高い。要するに、短期的に見て損か得か、コスパ・タイパが良いか悪いかという判断軸だ。

 ジョブ型でなくても、すでに若手人材の間では「短期的な経済的交換」の感覚が一般的になってきたかもしれない。厚労省(2024)「新規学卒就職者の離職状況」によると、就職後3年以内の離職率は新規高卒者で38.4%、新規大卒者で34.9%と上昇している。 他の調査でも、新入社員の24.1%が「3年以内に離職する」と答えており、新卒入社者のこうした短期間での離職傾向は無視できない。