ベアがなければ実質的な“賃下げ”に

 厚生労働省の2024年「民間主要企業における春季賃上げ状況の推移」 によれば、賃上げ率は1995年以降長らく1~2%台に低迷していたが、2023年には3.60%、2024年には5.33%と33年ぶりに5%台に達した。

 この背景には物価上昇と人手不足がある。消費者物価指数(CPI)は2000年代は横ばいだったが、2020年代には2022~2024年の3年間で約8%上昇している。2023年と2024年の賃上げ率は、こうした物価上昇を反映したベアによるものと見られる。

 ベアの実施は大企業に限らない。財務省の調査では、2024年にベアを実施した企業は70.7%であり、そのうち「3%以上」のベアを行った企業は大企業で68.5%、中小企業で52.0%となっている。

 2024年春にベアを行わなかった企業は、2024年4月のCPI前年同月比2.8%上昇に対応しなかったということであり、実質的な給与水準は物価上昇分だけ目減りしたといえる。労働組合があればベア要求を行っただろうが、厚労省の2023年調査 では労組加入率は16.3%と過去最低を更新しており、労組のない企業でのベア実施は経営判断に委ねられる。

 経団連の2023年「人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果 」によると、賃金改定にあたって特に考慮した要素(上位2つ)として、最も多かった回答は「物価の動向」(54.0%)であり、「人材確保・定着率の向上」(49.7%)、「企業業績」(34.5%)がそれに続く。


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 つまり、経団連会員企業1540社の労務担当役員などのうちの約半数は、企業業績よりも物価動向と人材確保・定着を重視して賃上げを行ったということだ。裏を返すと、労務担当役員などの約半数は、そうではないということで、賃上げに対する企業のスタンスは二分されている。

 あなたが勤める会社は、2024年の賃上げにおいて3%以上のベアを行っただろうか?

 あなたの会社の給与水準がベアの有無を気にする必要がないくらい高い場合は別だが、もしベアがなかったとすると、物価動向や人材確保・定着をあまり気にしない会社に勤めているということかもしれない。