「ふつうの会社員」こそ「ベア」が大切に
企業と社員との関係が「数年程度の比較的短い期間を念頭に置いた経済的交換」と考える人が増えると、これまで以上にそれぞれの企業の現在の給与水準が持つ意味が大きくなる。育児などで資金需要が大きい世代にとっては、なおさらだ。ジョブ型が浸透すると、資金需要のピークよりもかなり早い時点で給与ピークが訪れることになりそうだ。
給与ピークに到達した後に、会社からの収入を増やすには賞与の増額か、ベースアップが必要になる。賞与は企業業績と個人評価成績が高ければ上がり、そうでなければ下がる。ベアは、前述のとおり、企業によってスタンスが分かれている。
賞与は業績に応じて増減するので問題ないが、ベアは人件費の増大が固定化するので避けたいという企業が少なくない。財務的な観点としては理解できるが、それが続くとベア実施企業と非実施企業の給与水準は、徐々に開いていく。
ジョブ型やキャリア自律の流れの中で、多くの企業が、社員とは「選び、選ばれる関係」だと言っている。その社員の大多数は「ふつうの会社員」の人たちだ。
社員の意思を重視した異動配置施策や働き方改革など、ジョブ型によって社員目線の施策も増えており、それらが重要であることは確かだ。しかし、給与水準は社員が勤務先を選ぶために必要な基本要素である。ベアの効果は全社員に及ぶ。
同じような仕事だとした場合、給与水準が高い企業と低い企業のどちらが優秀な人材を確保しやすいかは明らかだ。今後、定型的な仕事はロボットやAIによる代替が加速度的に進むことが予測されており、企業の優劣は人にしかできない仕事の質、すなわち、人材の質で決まると言ってよい。企業はベースアップを人件費と考えるか、人的資本投資と考えるのかが問われる。
ジョブ型で職務給を導入するという「給与の決め方」と、いくら払うのかという「給与水準」とは異なるイシューである。企業は給与水準に関するポリシーも明確にして、社員と入社希望者に説明できる状態にすることが大切だ。そして、その給与水準を上げていくことが企業の生き残りに繋がっていくだろう。
そして、就活生や転職を目指す人たちにとっても、給与水準に関してその会社がどのようなポリシーを持っているか、しっかりと見定める必要がある。さもないと、就職後に他社との給与格差が開いていき、後悔しかねない。
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