仕上げは珍味と押寿司
手の空いた主人が声をかけてきたのは、先日の私の番組での国分寺の居酒屋「潮」を訪ね、そこの〈銀杏の春巻〉を早速真似してみましたとのこと。勉強熱心だな。ではとお願いしたそれはとりあえずやってみましたという感じで、これから店の味に作ってゆくだろう。
そろそろ珍味で仕上げよう。品書の「酒ドロボー」から〈熟成かつお〉なる品を選ぶと「これは太田さんに食べてもらいたいと思っていたんです」と主人がひと膝乗りだした。製法は秘密と笑ったが、しっとりねっとりしながらも太陽光を浴びたような香りはカラスミにも通じ、酒好き皇帝に供せる高貴な味と書いておこう。名残惜しく仕上げに頼んだ〈おつまみ用押寿司〉二貫は、もち米三割で半搗きして炊いた酢飯にヒラメ昆布〆を握ったもので、味、香り、食感すべてが総合し、寿司が立派な酒のつまみになっていた。
築地から移転した豊洲市場が近いことから月島に二〇一八年に開店。店名「ユの木」は主人の名前に「ユ」が入るため。「食堂」と冠し、味に味を重ねるのをいとわない研究熱心さが客をつかんで離さない。まさに居酒屋の聖地にふさわしい店が誕生した。
銀座と川ひとつ隔てて便利ながら下町の風情を残した月島は高層マンションが増え、越して住み着く著名人も多くなり「月島族」を作っている。私もその一人だ。
「食堂 ユの木」
住所:東京都中央区月島3-14-2
TEL:03-6240-5095
営業時間:平日17時30分~22時(20時50分までの入店) 祝日・休日17時30分~21時30分(
定休日: Instagramにてご確認ください
https://www.instagram.com/tukisima_yunoki/
(編集協力:春燈社 小西眞由美)