ワインが飲めるパン屋さん、自家製パンを焼くビストロなど、パンとワインを楽しめるお店が急増中。人気連載「普段着の京都」でおなじみのグルメライターの岡本ジュンさんが今回も素敵なお店を紹介します。お昼にお酒を飲むような、ゆるりとした気持ちでお楽しみください。

取材・文=岡本ジュン 撮影=ミヤジシンゴ

『パン呑みプレート』1000円。10種類ほどのパンは具を練りこんだものも多い

朝はベーカリー、午後はパンとワイン

 パンのないパン屋である。いや、それは言い過ぎか(笑)。午後4時、扉を開けるとそこにはパンがひとつも並んでいなかった。

『たむらパン』は、門前仲町の駅を出て住宅街をぐいぐいと進み、大横川を渡って至る牡丹町にある。静かな路地にあって、とくに看板はなし。ベーカリーらしき気配を微塵も感じさせない入口は、知らなければ入るのに勇気がいりそうだ。事実、恐る恐る扉を開けてやってくるお客さんも少なくない。

目の前で、おいしそうなお惣菜とパンの盛り合わせができあがる

 店内はさらに想像の上をいく工房のような雰囲気で、壁には生産者などのサインや応援コメントが躍り、ちょこちょこ置かれたアートが目を引く。カウンターは大きさの違うヴィンテージの机たちを整列させている。でもそこがひとたび腰を下ろすと、なんともいえないいい湯加減の場所になるのだ。

奥がパンを焼く工房。午後ももくもくと仕込みをする田村裕二さん

 パンとワインというこの企画で、パッと最初に頭に浮かんだのがここだった。ふたりとも兎年だという店主の田村夫妻は、店名を田村とラパン(フランス語でうさぎ)にもかけている。この絶妙なネーミングセンスからもわかるように、とんがったユーモアが効いている楽しい店なのだ。

オープンキッチンのカウンター。ステムなしのワイングラスがオシャレだ

 朝寝坊で怠け者だと人気パン屋はハードルが高い。早く行かないと売り切れてしまうからだ。行列必須の店には、一生かかっても入れないような気がする。そんな人間にとって『たむらパン』はとてもうれしいスタイルなのだ。