登場人物のキャラクターが不鮮明

 朝ドラには付き物の感動要素も少ない。これが支持の高まらない大きな要因だろう。

『虎に翼』の主人公・猪爪寅子(伊藤沙莉)は序盤から性別による差別や不公平に抗い、観る側の胸を突いた。『ブギウギ』の主人公・福来スズ子(趣里)は父母と血縁関係がないことを知り、強いショックを受けるが、それを隠して明るく歌劇に励み、観る側に力を与えてくれた。『おむすび』は平成青春グラフティーと銘打たれているが、それでも感動は生めるはずだ。

 ほかにも気になる点がある。家族の描写である。朝ドラは時代設定もテーマも作品によってバラバラだが、序盤で家族1人ひとりのキャラクター、主人公と家族の距離を詳しく描く点では一致している。『おしん』(1983年度)の時代の以前からずっと続くセオリーだ。

 そうすれば、大半の視聴者が家族との暮らしを経験しているから、物語に親近感を抱かせやすい。『虎に翼』のように法律が出てこようが、『ブギウギ』のように歌劇を描こうが、家族の存在が物語に普遍性を生む。

『おむすび』は家族の描写が薄い。登場場面は多いが、そのキャラクター、歴史にはいまだ不明点が多い。代表的なのは結の母親・愛子(麻生久美子)である。その歴史、聖人と結婚した経緯が分からない。これが感情移入の妨げになっていると見る。

 愛子が物わかりのいい人なのは明らかになっている。第10回(10月11日)、ハギャレンの真島瑠梨(みりちゃむ)が深夜徘徊で警察に補導されると、黙って身元引受人になった。結のギャル活動にも当初から寛容だ。

 その背景には元不良少女だったことがあるようだが、詳細は明かされていない。第33回(11月13日)では18歳で結の姉・歩(仲里依紗)を妊娠したことが明かされたが、父親が誰なのか、どうして聖人と知り合ったのかも分からないままである。

 と厳しいことを書いたが、これで主人公を演じる橋本環奈の女優としてのキャリアに傷がつくということはないと言っていい。2010年度以降、朝ドラのヒロインが低視聴率によって仕事が減ったり、失ったりしたことはない。俳優に責任を負わせる悪しき風潮は2000年代ごろに消えた。また制作陣が干されるようなこともない。

 朝ドラがつまらなくて損をするのは視聴者だけだ。朝ドラの制作費は受信料の中から出るからである。受信料の公平負担という観点からも、広く受け入れられる朝ドラが望まれる。